新国立劇場・R.シュトラウス「サロメ」(10/9)の感想


新国立劇場・R.シュトラウス「サロメ」(10/9)の感想です。

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サロメを演じたエリカ・ズンネガルドはストックホルム生まれの美貌のドラマティック・ソプラノですが、全般にやや声量不足かとも思えましたが堅実な歌唱技術をベースに高音域の艶やかな美声を武器としつつ演出の要求するサロメの魔性を声量に頼らず最後まで過不足なく演じ切ったように思われましたし、ドラマティック・ソプラノとしては中音域の力強い押しの強さがもう少しあればとも思いましたが、迫真の演技力も含めてズンネガルド独自のサロメ像を明確に浮き出させていた点に敬服しました。

ヨハナーンを演じたジョン・ヴェーグナーは、昨年の新国立劇場「カルメン」でエスカミーリョを歌ったのを聴いたときにはフランス語の発声が全体に固くて滑らかさを欠くなど違和感があり、多分ドイツ・オペラの方が得意なのだろうなと思ってしまいましたが、やはり今回のヨハナーンの方が適役という印象で、その威厳に富んだボリュームある発声のスタイルはヨハナーンの高潔なキャラクタに相応しいものでした。ヘロデ役スコット・マックアリスターに関しては準備不足だったのかもしれませんが声量が全般に振るわず演技やニュアンスにおいても正直それほど際立った印象ではありませんでした。

ヘロディアスを演じたハンナ・シュヴァルツは大ベテランとしての安定した歌唱力もさることながら独特の貫録というのか、その舞台姿には揺るぎない存在感がありました。シュヴァルツといえば、あまりにも有名なカール・ベーム指揮ウィーン・フィル演奏によるオペラ映画「サロメ」での小姓役が思い出されます。この映画はゲッツ・フリードリヒの演出により1974年に制作されたものですが、約40年後の現在でも同じ「サロメ」のオペラで壮健な歌唱力を披歴していることに改めて敬服の念を抱きました。

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ベーム/ウィーン・フィルのオペラ映画「サロメ」での
ハンナ・シュヴァルツ(市販のDVDより)

ラルフ・ヴァイケルト指揮の東京フィルの演奏は全体を通して整然と破綻なくアンサンブルを持続しつつも聴かせどころでは実に豪快な鳴りっぷりを披歴し、その思い切りの良さには聴いていて惚れぼれするほどでしたが、逆に繊細な部分を大きな音で誤魔化しているように思えなくもなく、サロメの官能的な色彩美やその本性としての残虐獰猛な気質の発露を表現するための、おもに弱音時におけるデリケートな陰影が不足気味であったようにも思えました。しかし純音楽的には良く練られた表現でしたし、指揮者交代のアクシデントを跳ね除けて大健闘という印象でした。

アウグスト・エファーディングの演出に関しては奇を衒った読み替えとか、取り立てて斬新な舞台効果というようなものは特段みあたらず、いわばオーソドックスな舞台回りに基づく正攻法の演出様式と思われましたし、視覚的にも観念的にもリヒャルト本来の音楽の醍醐味を阻害せず、安心して演奏に集中できるという観点において好演出という評価を確立しているのかと最初は観ていて思いました。

しかし舞台を良く観ていると、この演出では大胆な読み換えとか舞台効果などとは無縁である反面、歌手の演技に一定の方向性が細かく規定されており、特にサロメに関しては潜在する二面性のうち幼い少女としての人格の発露の方に重点が置かれていたように思われましたが、とりわけ踊りの褒美に何を望むかと聞かれたときケラケラあどけなく笑いながら無邪気に「ヨカナーンの首」と告げるあたり、なかなか観ていてゾッとするものがありました。

本質的に「サロメ」は先週の新国立劇場で観たヴェルディの「トロヴァトーレ」などと違いシナリオ自体の持つ訴求力が尋常でないので、必要以上に演出で手当てをする必要もないとも思えますが、それでも演出のコンセプトの方向性は大事ですし、そのあたりのバランスが考え抜かれているあたりが本演出の大きな美質となっているのではないかと思いました。

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