メトロポリタン・オペラ来日公演プッチーニ「ボエーム」(NHKホール 6/11)の感想


     2011-6-12

バルバラ・フリットリのミミは昨年のトリノ王立歌劇場の来日公演で聴きました(東京文化会館)が、あの時の突き抜けた歌唱ぶりからすると、やや歌い回しが慎重で、全体的に表情が硬いような印象もそこかしこで伺われたというのが正直なところです。が、それをどうこう言うのは酷ですし(そもそも条件が違い過ぎる)、そんなことより今回あらためてフリットリを聴いて、その歌手としての才能が心底すごいと思わされたのは、あれほどの緊急登板でミミをあれだけ歌えてしまうという点です。なにしろ同役はソプラノ歌手にとり難役であり、フリットリ自身、ながらく同役を歌うのを躊躇っていたところ、ようやく最近になってトリノ歌劇場の音楽監督ノセダに説得されて踏み切った、と言っていたはず。

それに彼女ならではというべき、一つ一つの「言葉」としてのフレーズと「歌」としてのメロディとが、歌い回しの中で絶妙の地点で拮抗して成立しているような醍醐味は、少なくとも昨年の実演と全く同じように感じられました。もちろんネイティブの強みもあるにせよ、やはりフリットリはミミという役柄に対する、掛け替えのないアドヴァンテージを生得しているのだなと、聴いていて感嘆を禁じ得ませんでした。

ロドルフォ役はピョートル・ベチャワで、マルセロ・アルバレスとのダブルキャストでした。アルバレスのロドルフォは昨年のトリノ歌劇場の「ボエーム」で聴きましたが、かつてのパバロッティに肉薄するかという印象さえあり、高音域の表現力に貴重な持ち味のある歌手だなと感じました。対して、今回のベチャワは全体的に高音がやや苦しそうで、かわりに中高音が美しく逞しい。第1幕のアリア「冷たい手を」の「speranza」でのハイCはボリューム感たっぷりでしたが、声が少し擦れ気味なのが惜しかった。しかし、ホールは大いに湧きました。

オーケストラの演奏ですが、ファビオ・ルイジの指揮がとにかく素晴らしい。良い意味で抑制を効かせたスタイル。全体に渡って音量を抑え、必要以上にオケを鳴らさない(正直、最初は鳴りが悪いのかと勘違いしたほど)。そのかわり、節度を保ってアンサンブルを丁寧に組み立てる、というスタンスが徹底されていました。それゆえにハーモニーの情報量が抜群であり、響きの細部までくっきりと鮮やかであり、なおかつ透徹した響きの引き締まりぶりがハンパでなく、音量に頼らないぶん、独特の凄味さえ感じさせるものでした。最後のミミ絶命の場面でさえ、叩きつけるような強和音が慎重に避けられ、世界が透明な悲しみで塗りつぶされたような、静謐で、凄絶な音響が展開されていました。あれは聴いていて鳥肌ものでした。

ファビオ・ルイジ、実は今回はじめて実演を聴きましたが、とくに日本では先年のドレスデン・シュターツカペレ来日公演での評判が芳しく、当該公演を聴きに行った人々が絶賛を惜しまなかったと記憶しているだけに、注目はしていましたが、これほどとは、という思いです。来年からチューリッヒ歌劇場の音楽監督となるそうで、今後さらなる飛躍が期待される指揮者ではないでしょうか。

そして演出。あまりにも有名なゼッフィレッリ演出の「ボエーム」の舞台、一度は実演で観てみたいと思っていましたが、ようやく叶いました。やはり舞台の美術的な雰囲気が抜きん出て素晴らしいというほかなく、第1幕や第3幕など、視覚的な遠近法の効果まで考え抜かれていて、観ていて絵画の中に歌手が溶け込んでいるかのような幻想的な感触でしたし、舞台装置の質感や実在感などは美術品なみのリアリティを帯びていましたが、そのいずれもが「ボエーム」というオペラ自体の醍醐味を絶妙に引き立たせていた点において、なるほどオペラというのは視覚と聴覚との融合による総合芸術である、という言葉の意味を、あらためて噛みしめさせられました。

コメント

 
こんにちは。時々訪問させていただき、記事を興味深く拝見しています。メトロポリタン・オペラのプッチーニ「ボエーム」はすばらしい舞台だったようですね。だいぶ前にメトロポリタン・オペラを一度聴いたことがあったので、そのすばらしい舞台を思い出しました。「ボエーム」は好きなオペラなので、是非メトロポリタン・オペラで生で鑑賞したく思いました。

私は最近モーツアルトのオペラの中でも好きな作品「コジ・ファン・トゥツテ」を鑑賞しましたので、感想を書いてみました。モーツアルトとベートーヴェンの音楽の違いについても触れてみましたので、是非読んでみてください。

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