N響の定期演奏会(5/14 NHKホール)


5/14 NHKホール
NHK交響楽団 定期演奏会

2011-5-14

指揮:尾高忠明
ゲスト・コンサートマスター:ライナー・キュッヒル

演目:
ウォルトン チェロ協奏曲
(チェロ:スティーヴン・イッサーリス)
エルガー 交響曲第3番(ペイン補筆完成版)

2曲とも滅多に実演に掛からない曲ですし、この機会に聴いておくのもいいかもと思いホールに行きました。オケの配置はVn-Va対向、編成は前半が14型で後半が16型。

前半のウォルトン・チェロ協奏曲はスティーヴン・イッサーリスのチェロ独奏が見事でした。冒頭からイッサーリスの代名詞ともいうべきガット弦の響きの柔らかさや軽やかさを十分に活かした、軽妙洒脱なボウイングの妙を披瀝したかと思うと、第2楽章では速めのテンポから切れのあるテクニックでバリバリと弾き進めていながら、すべての音符が克明に浮き上がらんばかりに稠密なボウイングの妙技を披歴したり、終楽章での、音楽の暗い内面を聴き手に意識させるほどにシビアな表出力を湛えた強奏の緊迫感など、この作品の演奏としては、全体的に揺るぎない説得力を保持した表現として耳をそばだたせられること頻りでした。

ただ、ガット弦の制約によるのか、少なくとも私の座席(2階前方)からだと、チェロの音が少し小さいかなという印象も正直あって、もう少し近距離で聴くか、あるいはサントリーホールなど良く響くホールで聴いたら、さらに演奏の面白味が映えていたかもしれないという気もしました。アンコールはツィンツィアーゼのチョングリが披露されましたが、弓を床に置き、右手でチェロの弦をギターのように弾いて演奏し、ホールを大いに湧かせました。

後半のエルガー交響曲第3番ですが、これはペイン補筆完成版、すなわち、本来エルガーの死去により未完に終わった作品である交響曲第3番を、イギリスの作曲家アンソニー・ペインが、エルガーの残したスケッチを元に補筆完成した版に基づく演奏でした。

このペイン補筆完成版は1998年にアンドリュー・ディヴィス/BBC響が初演して以来、CD録音も複数のものが為されていますし、すでに一定のポピュラリティを獲得している作品ですが、エルガー自身は自分の死後スケッチを破棄することを望んだと伝えられていることから、補筆の段階でそれなりに物議を醸したとされ、その意味では、マーラーの未完の交響曲第10番のクック補筆完成版と、いみじくも似たような運命を辿った作品であるようにも思えます(マーラーも自分の死後、交響曲第10番のスケッチを焼却するようにと伝えていた)。

初めて実演で耳にしての率直な印象としては、その音楽としての高貴な風格やノーブルな気品、それに叙情的でウィットに富んだ旋律美など、聴いていて確かにエルガーの完成したであろう交響曲にも、限りなく近いような感触もあるし、さりとて微妙な違和感もあるしで、正直どこまでエルガーとして聴けば良いのやら、という戸惑いも少なからずという按配でした。

少なくとも、このペイン補筆完成版の厚みのあるオーケストレーションは、こうして実演で目の当たりにすると、どうなんだろうという気もしました。というのは、前述のマーラーの交響曲第10番クック補筆完成版の場合、マーラーのオリジナルのスケッチを尊重し、オーケストレーションの加筆を出来るだけ控えめに抑えるというのが補筆者の方針だったのに対し、こちらのペイン補筆完成版の場合、エルガーの断片的なスケッチを、これだけの大規模なオーケストレーションにまで膨らませている以上、やはりどこかで無理が生じていなくはないかという素朴な疑問を聴いていて拭えなかったからです。

イギリス音楽を得意とする尾高忠明の指揮は、このペイン補筆完成版を録音した数少ない指揮者(日本人では唯一のはず)としての貫録でオーケストラを堅実に牽引し、そのタクトにN響のアンサンブルが一定の距離を保ちつつ付いていく、という風で、終楽章などもう少し喰らい付いてもという感もありましたが、熱し過ぎず覚め過ぎず、全体的に程好いバランスの演奏でした。

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