読書間奏「相対性理論から100年でわかったこと」


「相対性理論から100年でわかったこと」
 佐藤勝彦・著 PHPサイエンス・ワールド新書
 
   PHP-029

・・みなさんに知っていただきたいのは「世界を形づくる最小の部品は、極小の長さのひもである」とか「宇宙は137億年前に生まれた」といった知識ではありません。そうした知識自体には、それほど価値がないとさえいえるかもしれません。
 なぜなら、ほんとうに価値があるのは「なぜそういえるのか」という点にあるからです。私たちは極小の長さのひもを電子顕微鏡で実際に見たわけでも、宇宙が137億年前に生まれた現場を確認したわけでもありません。私たちが明らかにした「物の理」に基づくと、究極の微小構成要素の正体や宇宙の年齢はそのように結論づけられるのです。「なぜかはわからないけれど、そうみたいだ」というのではなく、物理学の知見に基づいてそうだと考えられること、それがすばらしいのです。そのすばらしさを、本書を通してぜひ知ってもらいたい、あるいは再確認していただきたいのです。・・

今年の10月に発売された新書「相対性理論から100年でわかったこと」を読みました。著者は宇宙物理学の第一人者であり、宇宙創世の謎を解き明かす最有力理論と目されているインフレーション理論の提唱者です。

内容はタイトルの通り、現代物理学の分野において、相対性理論の提唱された時代から約100年が経過した2010年現在、我々人類はどこまで、この世界のことわりを解き明かしてきたのかが、極めて分かりやすく説明されています。こんなに分かりやすくていいのかと思うくらい。佐藤先生の著作には、いつも感動させられてしまいます。

具体的には現代物理学の主要4分野である、相対性理論、量子論、素粒子論、宇宙論の4つのジャンルに、各々50ページ程度が割り当てられ解説されています。現代物理学の中でも関心の特に高いジャンルを網羅した欲張りな内容であり、どの理論も専門的な知識なしでもだいたいのことが理解してもらえるように、できるだけやさしい説明を試みたつもりと、著者は最初に書いています。

まず相対性理論と量子論が順に取り上げられます。19世紀の物理学に残された2つの暗雲、それに対する解答が相対性理論と量子論にほかならないこと、いずれも「光の特性」に密接に関係する物理学的な疑問を出発点とした理論であること、相対性理論がアインシュタインという一人の天才の手になる理論であるのに対し、量子論の方は複数の物理学者の段階的な探究により建設された理論であること、など、かなり基本的なことから始めながら、著者は次第に各理論の中枢に鋭利に切り込み、その「すごさ」を我々一般の素人にも分かりやすく開示していきます。

例えば量子論のすごさに関して、著者は「自然現象の未来はただ一つに決まっている」というそれまでの物理思想を根底から変えたこと、これに尽きる、と言い切ります。言われてみれば確かに、我々が高校で習ったニュートン物理学、それにマックスウェル電磁気学はもちろん、あの相対性理論でさえ因果律により未来が定まるという「決定論」に基づく理論だったが、量子論は不確定性原理に基づく確率論として構築されている。そして、このことが20世紀後半の宇宙論の発展において決定的な福音をもたらします。なぜなら、すべての物理的状態を不確定だと考える量子論においては、「何もない」という状態を許さないからで、哲学的な意味での無やゼロという状態は物理学的には有り得ない、という考え方をとる。これは宇宙論における「宇宙創世の段階で、なぜ、無から有が生じたのか」という根本的な疑問に対する有力かつ説得力のある回答を提供するものであり、つまり宇宙の始まりにおける「無」の状態を「量子論的な無」と規定することにより、一気に物理学的な考察が可能になるという流れになります。

そう、本書の真に素晴らしい点は、このような「流れ」が読んでいて自然に理解できてしまう点にある、と私は思う。ほんとうに価値があるのは「なぜそういえるのか」という点にある、と上述のように著者は書いているが、実際その通りの書かれ方がされていて、よくある現代物理学の本のような、無味乾燥な知識の羅列と一線を画していることが実によく分かります。

そして本書の後半では素粒子論と宇宙論が順に取り上げられます。素粒子論とは我々の世界を構成する究極の基本要素である素粒子の正体に迫るための理論ですが、これはミクロの世界の物理現象を扱う量子論を素粒子に対して応用した理論なので、量子論と密接な関係にあるジャンルでもあり、そのあたりの「流れ」は本書でも大事にされています。

この部分は、やはり超ひも理論のトピックスが面白い。これは上で引用した部分の「世界を形づくる最小の部品は、極小の長さのひもである」という話のことですが、要するに原子の中には原子核があり、原子核の中には陽子と中性子がある、それらの微粒子を更に分解するとクォークという素粒子に行き着くが、そのクォークは更に極微小サイズのひもの振動により構成される、これが超ひも理論で扱われる対象になる。そういった極小の長さのひもを電子顕微鏡で実際に見たわけでもないのに、何故そう言えるのか? ここは特に読み応えがあるところです。

そして周知のように素粒子論の分野においては日本人の研究者が果たした功績が甚大です。本書でも、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹と朝永振一郎の業績が分かりやすく解説されています。そして、もうひとり忘れてはならないのは2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎氏の業績です。素粒子物理学における対称性の理論に基づき、素粒子が質量を持つ理由を理論的に解明した「自発的対称性の破れ」の理論は、私のブログでも以前ちょっとだけ取り上げたことがありましたが、その本質が本書では実に分かりやすく説明されています。

さらに、ここで話は素粒子から宇宙論へと発展します。というのも、宇宙初期における真空状態において「自発的な対称性の破れ」が生じ、そこから「真空の相転移」が生じた結果、この宇宙に質量が発生したとする、この南部氏の理論は著者の提唱する「インフレーション宇宙理論」の基礎となっているからです。

まず「宇宙論とは宇宙の膨張の様子を研究する学問である」と著者は規定します(宇宙の膨張の様子が分かれば、宇宙の歴史や構造が概ね分かってしまうから)。その上で、1946年に提唱されたビッグバン宇宙論、さらに本書の著者である佐藤勝彦氏により1980年に提唱された「インフレーション理論」、その先に位置する量子重力理論と、現在の人類の、宇宙の真理に接近する臨界点にいたるまでの、現代宇宙論が辿った「流れ」が綴られていきます。

それでは、その臨界点の先には何が? 現在、宇宙を構成する要素のうち95%は正体不明で、それは暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギーと便宜的に呼ばれているそうです。そして、宇宙全体の75%が占められる真の主役は暗黒(ダーク)エネルギーであると著者は説きます。現在の宇宙論における最大の謎が暗黒(ダーク)エネルギー問題であり、このエネルギーの正体は「全くの謎」であり、この解明により現代物理学が次のステージに進めるのではないかと著者は予想しています。

現在の状況は、相対性理論が登場したころによく似ています。光の速度をめぐる謎について従来の物理学(ニュートン力学)では答えられず、その限界を乗り越えるものとして相対性理論は生まれました。同じように暗黒エネルギーをめぐる謎から、革新的な物理理論が誕生するのではないでしょうか。そうした際にも、ビッグバン宇宙論やインフレーション理論がまったくの間違いとして否定されたりはしないでしょう。ですがニュートン力学に対する相対性理論のように、私たちの知らなかった、より深い真理が見えてくることは大いに期待できるでしょうね。

なお本書の発売される少し前に、佐藤先生は別の出版社から宇宙論に関する著作を出しています。そちらについても、いずれブログで取り上げてみたいと思っています。

コメント

 
このコメントは管理者の承認待ちです

コメント

 
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

Powered by FC2 Blog
Copyright © クラシックCD感想メモ All Rights Reserved.