ブーレーズ/ニュー・フィルハーモニア管によるベートーヴェン交響曲第5番「運命」


ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」
 ブーレーズ/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
 ソニー・クラシカル 1968年 SRCR2510 
SRCR2510

昨日の続き、、というよりは、まあ雑談のような話になりますが、昨日ブログに掲載した読書間奏「指揮者の知恵」の中で、ちょっと細かいところで読んでいて疑問に思われるところもありましたと書きましたが、一応そのことについて簡単に。

疑問に思われたというのは、具体的には以下の記述部分(新書のP.29)になります。

 では、指揮者によって音楽はどのように違ってくるのでしょうか。ベートーヴェンの「交響曲第5番」の冒頭部分は、指揮者による演奏の違いが顕著にわかる例と言われます。「運命」という副題で知られるこの曲、「ンタタタ ターン、ンタタタ ターン」というモチーフ(主題)に聞き覚えのない方はいないでしょう。
 しかし、同じ「ンタタタ ターン」というフレーズでも、テンポが違うだけで、曲全体の印象がまったく変わってしまいます。全4楽章の演奏時間も、動機を「タタタターン」と軽快なタッチで歯切れよく提示するアルトゥーロ・トスカニーニの指揮では30分11秒、「ダッ、ダッ、ダッ、ダーン」とにぶい重厚感を感じさせるピエール・プーレーズの演奏では38分30秒と、8分以上の違いが出てくるそうです。これは、指揮者が楽曲をどのように読み取り表現したかというスタンスの違いから生まれるものです。

この部分の著者の趣意として、たとえ同じ曲でも指揮者が選択するテンポが違うだけで、曲全体の印象がまったく変わってしまう、ということを言いたかったことは文章を読む限り明らかだと思われます。それを受けて、テンポの速いトスカニーニの指揮とテンポの遅いプーレーズの指揮とで、同じ「運命」でも8分以上の違いが出てくる、と例示したのでしょう。

しかし、プーレーズの「運命」は第3楽章をABABAの5部形式で演奏しているため、ABAの3部形式のトスカニーニの「運命」と比べた場合、もし全く同じテンポで演奏しても全曲タイムに差が生じるのは自明なので、残念ながら比較例として妥当とは思えず、この対比にブーレーズ盤を選択したのは著者の勇み足だったように思えます。

ちなみに「ピエール・プーレーズの演奏では38分30秒」とありますが、この全曲タイムはブーレーズがニュー・フィルハーモニア管とCBSに録音した「運命」のタイムと同一ですので、上の引用部において著者が念頭に置いたのは本CDに収録されている「運命」の録音とみなしてよいかと思われます。

なお、このブーレーズ/ニュー・フィルハーモニア管の「運命」の録音で採用されている第3楽章の5部形式は1966年に発表されたクラウス・カニジウスの研究論文(反復記号が除かれたのはベートーヴェンの不注意であるとするもの)に依拠するもので、それをブーレーズは全面的に受け入れた形で演奏しています。この第3楽章の反復は21世紀の今でこそ珍しくなく、特にピリオド志向の強い指揮者を中心に5部形式で録音される例も増えていますが、その論文にいち早く注目して録音を果たしたのはブーレーズの先見の明というべきでしょうね。

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