クイケン/ラ・プティット・バンドによるバッハ・ブランデンブルク協奏曲全曲の新録音


J.S.バッハ ブランデンブルク協奏曲全曲
 クイケン/ラ・プティット・バンド
 アクサン 2009年 ACC24224
ACC24224

ベルギーのアクサンから先月リリースされた、シギスヴァルト・クイケン指揮ラ・プティット・バンドの演奏によるバッハ・ブランデンブルク協奏曲全曲のCDを聴きました。
 
古楽演奏の大家シギスヴァルト・クイケンは手兵ラ・プティット・バンドを率いて、かつてドイツ・ハルモニア・ムンディにバッハのブランデンブルク協奏曲全曲を録音しており、このコンビの2回目の同曲録音ということになります。また、クイケンは1970年代にレオンハルト・コンサートが録音したバッハのブランデンブルク協奏曲全曲にヴァイオリン奏者として参加しているため、クイケンとしては同曲の3回目の録音ということもできそうです。

ブランデンブルク協奏曲はバッハの作品の中でも特に私の好きな作品のひとつで、そのクイケンの旧録音やレオンハルト盤なども、かつて好んで聴いていた時期がありましたが、今回リリースのクイケンの新録音は、とりわけ同じコンビによる旧録音の地点から、どのような演奏解釈の発展なり熟成が聴かれるか興味をそそられます。

さっそく聴いてみると、全6曲を通してクイケンは持ち前のコンセプトとも言うべき、可能な限り緻密かつ周到にスコアの再現を目指すというコンセプトがアンサンブルの隅々まで浸透したかのような、まるでバッハの時代の演奏が時代を超えて立ち現われたかと思えるまでのフレッシュでみずみずしいアンサンブル展開を実現せしめており、クイケンのバッハへの深い帰依の度合いが聴いていて端的に伝わってくるようで、その演奏の音楽の充実感に身を浸しながら全曲を一気に聴き終えました。

このクイケンの新録音を聴いて私が特に素晴らしいと思ったのは、これほど豊潤にして落ち着きのある、懐の深い響きがピリオドオーケストラから聴かれるのかという点に、ある種の驚きを禁じえなかったことです。というのも、このクイケン新録音のブランデンブルクの演奏においては、例えばフレージングの鋭角性を無闇に強調するといったような、ピリオドスタイルの過剰な横溢を厳しく律しているような、その意味で華やかな楽想の中にもどこか禁欲的な佇まいがあり、それが作品への自然な共感を感じさせ、ひいてはバッハの音楽を聴き手に何気なく意識させる、そんな雰囲気が滲んでいるように思われたからです。

この点、私が今回のクイケン盤の直近に耳にしたブランデンブルク全曲の新譜として、昨年リリースされたガーディナー/イングリッシュ・バロック・ソロイスツのCDがありましたが、そのガーディナー盤ではブランデンブルク協奏曲のロックンロールのような側面を強調したいというようなコンセプトがライナーノートに書かれていましたし、実際に聴いてみた印象としても、協奏曲第1番のホルンや第2番のトランペットなどを中心に、聴いていて何となくジャズ演奏を思わせる雰囲気をまとった演奏となっていました。それは確かに聴いていて胸のすくような、快適で、気持のいい演奏でしたが、同時に聴いていて「これって本当にバッハなのか?」というような一抹の疑問も拭えなかったのも正直なところです。

対して今回のクイケンの新録音は、くだんのガーディナー盤に比べれば表情の強さは遙かに穏健ですが、少なくともバッハを聴いたという実感なり達成感が聴後より強く湧きおこる、という観点においては、ガーディナー盤を凌駕する美質を備えているのではないかという気がします。

その意味では、クイケンが一回目のラ・プティット・バンドとの録音から、さらに高い表現を突き詰め、作品の核心に迫ろうとする、そんな地点に到達したような音楽の味わい深さが感じられます。SACDの音質が提供するソノリティの確かな実在感も含めて、これは単なるスコアの綿密な再現というに留まらない、極め付きのバッハ演奏のひとつと思えました。

演奏自体に関する私の感想は以上ですが、以下、クイケン/プティット・バンドのブランデンブルク全曲の旧盤と、今回の新盤との、演奏方式の違いについて言及しておきたいと思います。

今回の新盤が旧盤と明確に違う点は、主に以下の3点です。

①ヴィオロンチェロ・ダ・スパラの使用
②ワンパート・ワンプレイヤー方式
③協奏曲第2番で、本来「トロンバ」のためのパートにトランペットが使われている(旧盤ではホルンだった)

これについては後日あらためて書きます。

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