アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスによるバッハのマタイ受難曲(2000年録音盤)


J.S.バッハ マタイ受難曲
 アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
 テルデック 2000年 8573-81036-2
8573-810362

今週サントリーホールで耳にしたニコラウス・アーノンクール率いるウィーン・コンツェントゥス・ムジクス来日公演のバッハ・ロ短調ミサの演奏が圧巻だったことを、先日ブログに書きましたが、そのアーノンクールのロ短調ミサの、およそ開放感とは無縁と言わんばかりに重苦しいリアリズムに貫かれた音楽の表情を聴いている時、それが同じバッハの「マタイ受難曲」の趣きに何となく似ているような印象を覚えました。

ところで、その公演のプログラムに、「アーノンクール、大いに語る」というインタヴュー記事が掲載されていて、その中に幾つか興味深い話が記載されています。

2010-10-30

その中で、「現在の精神状態は?」という問いに対し、アーノンクールは「悲観主義」と答えています。「今日の我々に音楽は何を与えてくれるか?」という問いに対しては、価値観の錯綜する今の時代に、本当に重要なことは何かを教えてくれたり大切なことを思い出させる力があり、私たちを人として成長させ、強くする、ただし、それは個人的な成長であり、人類全体を対象に考えた場合、残念ながら無力である、と。

とくに最後の、残念ながら音楽は無力であるというくだりにアーノンクールの悲観主義的な世界観が反映されているように思えますが、このアーノンクールの悲観主義が私には何となくマタイ受難曲の世界観とオーバーラップするように思われ、その観点から当夜アーノンクールが披歴したロ短調ミサの演奏の印象を改めて振り返ってみると、やはりアーノンクールはロ短調ミサをマタイ受難曲のイメージに出来るだけ近づけようとしたのかもしれないという印象を深めました。

というのも、マタイ受難曲という作品自体そもそも相当に悲観主義的な世界観に貫かれたものであって、そのストーリーの概要を一言でいうなら、要するに堕落した人類が神の怒りにふれて滅ぼされるところをキリスト一人が犠牲になったことにより人類が救われた、という話ですが、旧約聖書の記述に端を発する、この神の手により堕落した人類が滅ぼされる運命にあるという思想自体、まさに極度に悲観主義的なものに他ならないと思えるからです。

ひるがえってバッハのロ短調ミサという作品には、基本的にミサという儀式形態に則っている以上、たとえキリストの磔などが象徴的に語られることはあっても、少なくともマタイのような劇としての強力なドラマトゥルギーは備えていないし、その意味では、本質的に悲観主義的な作品とは言えない。しかし、そのマタイの世界観をロ短調ミサという作品に盛り込もうとした結果、あのような特異な趣きを放つロ短調ミサとしてホールに立ち現われたのではないかと、そんな気が私にはします。全く的外れかもしれませんが、少なくとも当夜アーノンクールの演奏したロ短調ミサには、「マタイ」を彷彿とさせるまでの、何か抜き差しならない緊迫感と名状しがたい暗黒の佇まいが重苦しく居座っていたように思えてならない・・

・・というようなことを考えながら、アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのバッハ・マタイ受難曲のCDを今日、久しぶりに聴きました。2001年にリリースされた、アーノンクール3度目の「マタイ」全曲盤。ドロテア・レッシュマン、ベルナルダ・フィンク、エリーザベト・フォン・マグヌス、ミヒャエル・シャーデと、先日のロ短調ミサの演奏会で歌った独唱陣が多く起用されていますし、当夜のアーノンクールのバッハの余韻に浸るにはもってこいのCDです。

コメント

 
どうもです。

今回のアーノンクールの最後の(とならなければいいなと願っていますが)日本公演、僕としてもこの秋の目玉でして、ロ短調ミサ曲(NHKホールとサントリー)、金曜日の天地創造と通いました。あと、最終日のオペラシティに出かける予定です。

ロ短調ミサ曲、本当に素晴らしかったですね。NHK公演は月末に放送されるので、非常に楽しみにしています。独唱陣に関しては、NHK公演のほうが出来が良かったような気もします。

天地創造も、作品自体今まであまり積極的に聴いてきておらず、なじみが薄かったのですが、今回必死に予習(?)して臨みました。客席が、半分くらいしか埋まっておらず、ちょっと演奏者に申しわけないなぁと感じてしまいましたが、演奏はそんなこと眼中にないといった感じの、集中力あふれるすごいものでした。12月ごろの気候にまで急に冷え込んだ日で、アーノンクールが体調崩したりしていないかちょっと心配でしたが、時差ぼけなども解消してきたのか、演奏自体は絶好調でミサ曲の日よりもさらに良かったと思います。まあ、曲も違いますし、聴いた席も全然違うのですが。ミサ曲はS席を奮発して2階センター、天地創造はアーノンクールの表情を見たいので(あともちろん経済的理由、苦笑)P席でした。

よく、「音楽があふれ出てくるような」という形容がされますが、アーノンクールの場合は「音楽が噴出してくる」とでも言いたくなるような、無尽蔵のエネルギーに圧倒されました。、
yasu様 どうも、
コメント有難うございます。

> ロ短調ミサ曲(NHKホールとサントリー)、金曜日の
> 天地創造と通いました。あと、最終日のオペラシティ
> に出かける予定です。

全公演を聴かれることになりますね、羨ましい限りです。私は予算の都合上バッハのサントリー公演だけでしたが、もちろんハイドンもモーツァルトも聴きたかったです。

> ロ短調ミサ曲、本当に素晴らしかったですね。

ですね。あのバッハは圧巻でした。

> 天地創造も、作品自体今まであまり積極的に聴いてきて
> おらず、なじみが薄かったのですが、今回必死に予習(?)
> して臨みました。
> 演奏自体は絶好調でミサ曲の日よりもさらに良かったと
> 思います。

アーノンクールの天地創造の方の公演、ネット上の演奏評などでも、とても絶賛されていますね。確か最近の朝日新聞にアーノンクールのインタビュー記事が出ていて、ハイドンとバッハとはアプローチを明確に差別化するということを言っていたように記憶します。おそらくロ短調ミサとは雰囲気をガラリと変えてきたのではないでしょうか。

> アーノンクールの場合は「音楽が噴出してくる」とでも言いた
> くなるような、無尽蔵のエネルギーに圧倒されました。

何というか、音楽を非常に突き詰めたうえで鳴らしている感じがしますね。

コメント

 
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