マイヤー兄妹とカルミナ四重奏団の共演によるモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲


モーツァルト クラリネット五重奏曲、五重奏曲断章K.580b
&ブラームス クラリネット五重奏曲
 マイヤー兄妹(cl) カルミナ四重奏団
 ソニー・クラシカル 2010年 88697646892
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ソニー・クラシカルから今月リリースされた、マイヤー兄妹とカルミナ四重奏団の共演によるモーツァルトとブラームスのクラリネット五重奏曲のCDを聴きました。2010年、ドイツのリューベックでの録音です。ここでは妹のザビーネ・マイヤーがモーツァルトでのソロを、兄のヴォルフガング・マイヤーがブラームスでのソロを、それぞれクラリネットで演奏しています。

なおディスクの余白にはモーツァルトの、クラリネットとバゼット・ホルンと弦楽のための五重奏曲の断章K.580bが収録されていますが、ここではザビーネがクラリネットを、ヴォルフガングがバゼットホルンを演奏するという形で兄妹の共演が為されています。

ザビーネ・マイヤーというと昨年の6月に来日し、下野竜也/読売日響と共演してウェーバーのクラリネット協奏曲第1番を披露したコンサートを私はサントリーホールで聴きましたが、そのころ偶然にもカルミナ四重奏団も来日しており、そのザビーネを聴いたコンサートから5日後、私は第一生命ホールでカルミナ四重奏団の来日公演も耳にしました

その2つのコンサートでのザビーネとカルミナの演奏はいずれも素晴らしいものでしたが、今回リリースのCDでは奇しくも、そのザビーネとカルミナ四重奏団とが初共演を果たしているということで、どのような演奏なのか大いに興味を惹かれます。

さっそくモーツァルトのクラリネット五重奏曲を聴いてみると、その透きとおるように美しいクラリネットの響きと、細やかなアルペッジョの音形など素早いタンギングのシーンで示される、余人の追随を許さなりようなテクニックの冴え、それに一つ一つのフレージングの表情の豊かさ、音色の移ろいゆくあたりのコントラストの鮮やかさなど、いずれもザビーネならではの個性が満面に披歴された演奏となっていて聴き惚れるばかりですが、そういった特性に耳を傾けていると、いつしか私の記憶にある、昨年のザビーネの実演において感じた印象が呼び戻されてくるような気がし始めました。

例えばザビーネのクラリネットの音色が人声のようなフィーリングを帯び出し、コンチェルトというよりむしろオペラ歌手がアリアを歌っているのを聴いているような錯覚を喚起させられたこととか、その驚異的に流暢な吹き回しに基づく、天衣無縫のフレージング展開が、クラリネットの器楽的ソノリティを超え、何か別次元の表現力を獲得したかのような、そんな希有の感触を味わったこととか、あのコンサートで私が体験した、そういう様々な印象が今回リリースのモーツァルトからも同程度に感得されるように思われ、その意味で幾ばくかの懐かしみとともに、このモーツァルトに耳を傾けていると、このクラリネット五重奏曲というのが、その本来のディヴェルティメント的な性格を超えて聴く者の胸に強く迫る力を付帯させている点に気付かされました。

そして、それはザビーネが1980年代に録音した同曲の3種類の録音、そのどれとも違う、一種独特の深みのある美しさと静けさとを湛えた表現からくるものかも知れないという風に私には思えます。例のベルリン・フィルとの騒動の余波の残る時期の録音と違い、ここでザビーネは生来の高度な演奏センスが完全に開花し、真に芸術的なモーツァルトを披歴しているのだなと、聴いていてしみじみと感じました。カルミナ四重奏団も完璧なアンサンブルの呼吸でザビーネのクラリネットのメロディを絶妙に盛り立てています。

これに対し、ヴォルフガングのブラームスの方はシックな諧調の音色をベースに終始おだやかな節度を保った演奏で、フレージングに必要以上に表情が付けられていないせいか、ロマン味ある情緒を厳しく律した、禁欲的な趣きが強く、その意味ではブラームスに良く調和する反面、ザビーネのモーツァルトに聴かれた強い個性感は希薄であり、聴き手の方から音楽に向かっていかなければならない表現といえるかもしれません。

以上、本CDはマイヤー兄妹それぞれのクラリネット演奏の持ち味が良く活かされたアルバムながら、私としては特にザビーネのモーツァルトの方に強い魅力を覚えました。彼女の、これが4回目の同曲録音にして、遂に彼女の最高に近い境地に至ったかと思わせるような、素晴らしい演奏と感じました。

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