朝比奈隆のベートーヴェン「エロイカ」のディスコグラフィ(その1)


昨日の更新で、朝比奈隆の指揮したベートーヴェンの「エロイカ」の録音が2010年9月現在、計13種類に及ぶということを書き、そのうち新日本フィルとの1989年ライヴの演奏について簡単に触れました。 
 
その13種類の録音それぞれに対する私なりの簡単な感想も含めて、これから3回にわたり、朝比奈隆のベートーヴェン「エロイカ」のディスコグラフィを掲載してみたいと思います。

以下、録音年順ではなくリリース順に掲載します。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
 学研カペレ 1973年 GD174914
GD174914

朝比奈の第1回ベートーヴェン交響曲全集の中の録音。初めてリリースされた朝比奈のエロイカです。これ以後、朝比奈は2001年に亡くなるまでに実に計7回のベートーヴェン交響曲全集の録音という、前人未到の業績を成し遂げていますが、その第一歩となる録音です。

第1楽章は反復が省略されている上にテンポも朝比奈にしては速め。第2楽章も総タイム16分半と、後年の録音からすると速足です。それでも(8:42)あたりのクレッシェンドのド迫力など凄まじい限りで、並の演奏とは一線を画した凄味がみなぎります。

しかし全体に、この73年録音のエロイカは彼の後年の一連の「英雄」の中では訴求力が比較的おとなしい感が否めなせん。朝比奈にとって同曲の初めてのレコーディングということで、堅さもあったのでしょうか、後年の朝比奈のエロイカ各録音と比べると、全体に彼の個性感の発露の度合が比較的弱く、大フィルのアンサンブルもスタジオ録りにしては全体にフレージングがぎこちなく、呼吸も浅く、ここぞいう時のティンパニも大人しく、どうも聴いていて思い切りが悪いというのか、オケの動きがガチガチという感じで、少なくとも後年の同フィルに聴かれる伸び伸びとした解放感は希薄と言わざるを得ないというのが率直な印象です。

なお彼の計13種類に及ぶベートーヴェンのエロイカの録音の中で、純粋なスタジオ録音は唯一この73年録音盤のみとなります。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
 ビクター 1977年ライヴ VDC-5528
VDC-5528

朝比奈の第2回ベートーヴェン交響曲全集の中の録音で、大阪フィル東京公演における東京文化会館でのライヴ録音です。

この演奏は朝比奈のエロイカの決定盤と昔から評価されており、現在でもこの77年録音をベストに推す人は多いようですが、私の印象は違っていて、確かに朝比奈流の重厚かつ濃密にして味の濃いベートーヴェンである点は疑いなく、また前述の73年録音エロイカに比べれば格段に進境の著しい演奏内容である点も疑いないところとしても、彼の残した後年の「エロイカ」の録音まで含めてベストだとまでは、ちょっと思えません。文化会館の残響の薄さを差し引いたとしても、重厚性、濃密性、味の濃さといった特性が後年の演奏よりも引き立っておらず、そのぶん押しが弱いですし、何より重低音が薄い印象があり、例えばディスクの余白に入っているエグモント序曲(同年9月大阪フェスティヴァルホールでのライヴ)の方が格段にバスが効いていることが、続けて聴けば明瞭に伺えます。

この77年ライヴは朝比奈としても自身初のライヴ録音によるリリースということで、慎重に過ぎたのか全体的にオケの鳴りが弱く、アンサンブルもスローペースに煮え切らないようなムードが伺えます。終楽章の中盤に差し掛かったあたりから、何か吹っ切れたようにスコーンと響きが良くなり、ようやく大フィルのアンサンブルの真価が発揮され出した感があるも、時すでに遅しという感は否めません。

朝比奈のエロイカは、この77年ライヴから第1楽章の反復が始まって全体のタイムが伸び、それに伴いテンポもスローに傾斜していきます。その意味で、これは後年のスタイルに移行する過渡期にあるエロイカではないかと私には思われます。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
 朝比奈隆/大阪フィルハーモニー交響楽団
 ビクター 1985年ライヴ VICC-60025
VICC-60025

朝比奈の第3回ベートーヴェン交響曲全集の中の録音であり、大阪シンフォニーホールでのライヴです。

朝比奈の「エロイカ」が70年代の過渡期を経て、80年代になって一つの完成形を示したことが如実に伺われる、充実を極めた演奏内容です。

第1楽章は反復を含めて20分に到らんとする、どしりとしたスロー基調。(9:42)のオケ渾身の迫力からして度肝を抜かれますし、広々として雄大な演奏のスケール、確信に満ちた音楽の風格、アンサンブルの豪快な鳴り具合、バスの豊かな実在感、どれひとつ取っても同じ大フィルとの77年ライヴを上回り、同ライヴが霞んでしまうくらいです。同曲2回目のライヴ録音とあってか、初ライブ録音の時よりアンサンブルが伸び伸びと呼吸している感じがしますし、少なくとも大フィルとのエロイカとしては一つの絶頂期の録音ではないでしょうか。


ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」
 朝比奈隆/新日本フィルハーモニー交響楽団
 フォンテック 1989年ライヴ FOCD9001/7
FOCD9001-7

朝比奈の第4回ベートーヴェン交響曲全集の中の録音。演奏については昨日の更新で書いたとおりです。

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