ヴァンスカ/ミネソタ管によるブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」


ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」
 ヴァンスカ/ミネソタ管弦楽団
 BIS 2009年 BISSA1746
BISSA1746

スウェーデンのBISから先月リリースされた、オスモ・ヴァンスカ指揮ミネソタ管弦楽団の演奏によるブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」のCDを聴きました。

CDジャケットには「1888 version」と記載されていますが、これは実は「コースヴェット校訂版」に基づく録音です。この版はブルックナーの弟子フェルディナント・レーヴェの手による改訂版を、アメリカの音楽学者ベンジャミン・コースヴェットが校訂し、国際ブルックナー協会の承認(「Collected Works edition」)のもと、2004年に出版されたものです。

このコースヴェット校訂版に基づくブル4の世界初録音として、以前に内藤彰の指揮、東京ニューシティ管弦楽団の演奏による国内盤CDがリリースされており、ブルックナー・マニアの間では話題になっていたようでした。ただ私は、この版の元であるレーヴェ改訂版には特に魅力を感じていないので、その内藤/ニューシティ盤はスルーしていました。

しかし、今回こうして世界的なレーベルのBISから新たにリリースされたとなると、今後このコースヴェット校訂版による演奏もそれなりに増えてくる可能性があることから、私も食わず嫌いを止めて、この版の演奏に虚心に耳を傾けてみたいと思い、このヴァンスカ/ミネソタ管のブル4を購入して聴いてみたのでした。

そのコースヴェット校訂版ですが、このCDの英文ブックレットの中で、コースヴェット自らが詳細な解説を行っています。

その解説では、原典版(第2稿)との相違点が、①フォーム②インストルメンテーション③パフォーマンス特性の3つに分類されて解説されています。①のフォームとは楽曲構造の改変のことで、要するにカットの有無のことです。②のインストルメンテーションとは器楽法で、終楽章にピッコロとシンバルが追加されていることを指しています。③のパフォーマンス特性というのはデュナーミク、アーティキュレーション、テンポなどを指し、原典版(第2稿)から更にクレッシェンドやデクレッシェンド等の細かい指示が追加されていることが説明されています。

以上を読む限り、私の印象としても、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュなどの一時代前の指揮者がレーヴェ版で録音したブル4の特徴と一致するので、やはりコースヴェット校訂版というのは、レーヴェ改訂版とほとんど同一であるという感触を抱きました。

ただ上でも書いたとおり、私自身レーヴェ改訂版はあまり好きではなく、それというのも、あの一連のカットに馴染めないからです。つまり上記コースヴェット解説の①にあたる点ですが、この版には、前半の2楽章にはカットが無いものの、後半の2楽章に大胆なカットがあります。

まず第3楽章ですが、スケルツォ再現部、このヴァンスカ盤で言うと(6:14)のところ、原典版にある第27~92小節分の部分が、すっぽりカットされているのです。このカットは脈絡が無さ過ぎで、これをもし知らないで聴いたなら、おそらくリスナーは録音の編集ミスによる抜け落ちだと思ってしまうのではないでしょうか。それくらい意味不明なカットです。

ついでに言えば、この第3楽章のスケルツォ主部の終盤、第250小節付近(4:07)から大きくディミヌエンドがかかるあたりも、私には違和感が強く、というのも、ここではティンパニとホルン以外のすべてのパートが取っ払われてしまっている点も含めて、トリオ直前のクライマックスの盛り上がりが御破算になっていて、どうにもブルックナーらしくないからです。

あと終楽章ですが、再現部における第1主題の再現部分(原典盤における第383~412小節の部分)のカット、このヴァンスカ盤で言うと(14:08)のところですが、これなど聴いていて何なんだろうと思いますし、これと第2主題再現部後半(15:58)の旋律の改変とがあいまって、音楽の構造的な不均衡感と単調性が増幅されている点も、やはり感心できない点です。

以上、版について長々と書きましたが、今回コースヴェット校訂版というのを初めて聴いてみて、やはりどうかなというのが正直なところです。しかし困ったことに(?)ここでのヴァンスカ/ミネソタ管の演奏自体は素晴らしいため、版に関しては首を傾げながら、演奏自体に聴き惚れてしまうという、いささかアンバランスな面持ちで全曲を聴き通したという状況でした。

その演奏ですが、全体的にミネソタ管のボリュームに富んだ、肉厚の豊かな響きを基調に展開される、アンサンブルの晴々とした色調が素晴らしく、ヴァンスカは演奏を通してハーモニーのバランスを常にきっちりとコントロールし、豪快に盛り上げるシーンから静謐に沈静するシーンに至るまで、ブルックナーの音楽の醍醐味を常に聴き手に意識させようと手練手管を尽くしているという風で、その溌剌とした音楽の情景には、版云々を忘れて聴き手を惹き込む独特の魅力が感じられるのです。

それでも版の制約から、どうしても聴いていてブルックナーにしては妙に芝居がかったように聴こえてしまうシーンもありますが、おそらくヴァンスカは良い意味で開き直っているように思われ、版の指示をきっちり踏まえながら、何らコセコセせずに思う存分アンサンブルを鳴らしている感じがしますし、それが引いては充実した表現力となって聴き手の心を捉えるような、そんな演奏だと思いました。

以下は余談ですが、ヴァンスカはちょうど10年前にもブルックナーの交響曲を録音してリリースしています。BBCスコティッシュ交響楽団を指揮して英ハイペリオンに録音した、交響曲第3番のCDです。

CDA67200
ブルックナー 交響曲第3番
 ヴァンスカ/BBCスコティッシュ交響楽団
 ハイペリオン 2000年 CDA67200

この時もヴァンスカは、今回のブル4でのコースヴェット校訂版と同様、かなり意表を突いた版の選択をしていました。

というのも、この10年前リリースのブル3で、ヴァンスカは「1876年アダージョ異稿版を伴う1877年版」という、世にも珍しい形態で録音していたからです。要するに第2楽章以外はノヴァーク第2稿で、第2楽章が1876年の異稿版という取り合わせなのです。

この1876年アダージョ異稿版というのは、ブルックナーが交響曲第3番に対する当時のウィーン・フィルの「初演拒否」を受け、第2稿への改訂を進める過程で生まれた、過渡的な作品なだけに、第1稿以上にレコーディングの俎上にのぼることが稀ですが、仮に録音されたとしても、例えばロジェストヴェンスキーの録音のように、普通は他の版と組み合わせず、このアダージョだけ独立して資料的に収録されるという形態が一般的なので、その意味でヴァンスカ盤は二重に珍しい録音形態と言えると思います。

ここでのヴァンスカ/BBCスコティッシュ響の演奏は、全体的に無駄のない引き締った造型の中に、音楽の猛々しさや素朴な味わいがナチュラルに息づいているような演奏で、アンサンブルの飾らない美しさにも傾聴させられます。全体にスタンダードな解釈ながら、第2楽章の版のチョイスの個性も含めて、録音から10年を経過した現在においても独自の存在感を持ったブルックナーだと思います。

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