フィルハーモニア管弦楽団の来日公演の感想


昨夜(6/2)のサントリーホール、サロネン/フィルハーモニア管弦楽団の来日公演の感想です。

2010-06-03

オーケストラの配置はステージ向かって左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロと並べた通常配置でした。

まず16型の編成で、サロネン「へリックス」の自作自演が披露されました。

この曲はサロネンが、友人であるワレリー・ゲルギエフの提案を受けて作曲したコンサート・ピースで、2005年のロンドンのプロムスでの、第二次世界大戦終戦60周年を記念したコンサートにおいて、ゲルギエフ/ロンドン響により初演されています。

ロビーで購入した公演プログラムには、「題は螺旋(らせん)の意味で、円錐面上を進んで最後に頂点に至る螺旋の形状が、アッチェレランド(速度の増加)しながらフレーズの音価を長くしていく音の動きによって描かれている」と書かれていますが、確かに聴いた印象としても概ね、その通りの音楽で、特に終盤の猛烈なアッチェレランドの生み出す、もの凄いカタストロフの迫力には聴いていて息を呑むほどでした。

しかし、それ以上に聴いていて考えさせられたのは、この曲というのが実は我々日本人にとって、それなりに「重い」意味があるのではないか、ということでした。

というのも、この曲が第二次世界大戦終戦60周年記念コンサートのために書かれたものである以上、要するに「第二次世界大戦終戦」イコール「日本の敗戦」なんですから、そのあたりの含みもまた音楽に内蔵されている、と考えるのが自然のように私には思えるからです。

もっとも、その内蔵されている含みというのが具体的に何なのか、となると正直、分かりませんでした。が、たとえ思い到らずとも、我々が「何かを突き付けられている」と感じること、その感覚自体が案外、大事なのではないかという気もするのです。

折しも、その第二次世界大戦の終戦と、極めて密接に連関する事象である、沖縄・普天間基地移設問題の責任を取る形で、鳩山首相が総理職の辞任を表明した、その同じ日に、皮肉にもサントリーホールで高らかに鳴り響いた、サロネンの「へリックス」、、

わずか10分ほどの小曲でしたが、聴いていて何だか色々と考えさせられた演奏でした。

続いて編成を14型とし、真紅のドレスに身を包んだヒラリー・ハーンのソロで、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。

このチャイコフスキーに関しては、今まで私が耳にした同曲の実演と引き比べても、おそらく一頭地を抜く演奏ではないかと思わせられるほどに素晴らしく、これには聴いていて脱帽の一言でした。

ここでのヒラリー・ハーンの演奏は、作品の様式を完全に掌握していること、比類ないほどのテクニックで万全に聴かせた演奏であったこと、これらについては紛れもなく、その時点で既に私は客席で感嘆させられっぱなしという状態だったのに、その上さらに音楽としての深い感銘、強烈なまでの訴えかけまでもが付随しているのですから、なるほど非の打ちどころの無い演奏というのは、こういうものなのかという実感を伴った感動で満たされたような心持で、ハーンのヴァイオリンに、ひたすら聴き入るばかりでした。

一言でいうなら、このチャイコフスキーの華やかなコンチェルトを、その華やかな摂理に逆らわずに、最後まで華やかに弾き通した、そんな演奏でありながら、その演奏にはケレン味のようなものが希薄で、むしろ思いもよらない作品の新鮮な美しさが、聴いていて次から次へと耳に飛び込んでくる、そんな演奏でもあり、正直この聴き慣れたはずの曲が、こんなに詩的な奥行きのある曲だったのかと、聴いていて全く驚かされたくらいでした。

そのヴァイオリンの音色の得もいわれぬ美しさ、繊細なボウイングの表現力、研ぎ澄まされた音色の訴求力、冴えわたるテクニックの切れ味、そのどれひとつ取っても尋常なものではなく、何という音楽的にハイレベルな演奏なのだろうと、もうひたすら圧倒されるばかりでしたが、そんな中でも特に印象深かった点は、作品との相性の良さというのか、いかにも華麗にして艶美な弾き回しでありながら、それらが外面的な効果に落ちないのは、ひっきょうハーンの持って生まれた音楽性、天性の華やかさのようなものが、なにか作品の性格に強くマッチしているからではないか、というようなことでした。

ハーンというと、これまで私の印象ではCDで聴くかぎり、特に可もなく不可もない演奏という感じで、特に注目していたアーティストというのでは、正直なかったのですが、昨夜の実演を聴くに及んで何かガラッと、印象が変わったような気がします。何より、聴き手を惹きつけて止まないような、表面的な意味での華やかさと、内面的な意味での訴えかけの強さとが、相互に排斥せず同居している演奏が可能であるという点で、なにか別次元の演奏を聴くような衝撃を味わいました。

サロネン/フィルハーモニア管の伴奏も、ハーンの華麗な弾き回しを絶妙に盛りたてつつ、同時にハーンの内面的な語りかけをも絶妙に引き立てた、およそハーンにとって理想的と思われるもので、おそらく両者の間に、相応の信頼関係が築かれているのではないかと思わせられるものでした。

後半のシベリウスについての感想は、今日は時間切れにつき、また後日に出します。

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