アルブレヒト・マイヤーのオーボエ演奏による「ヴォイス・オブ・バッハ」


「ヴォイス・オブ・バッハ」
 A.マイヤー(ob)/イングリッシュ・コンサート
 デッカ 2009年 4781517
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デッカより先月リリースされた、「ヴォイス・オブ・バッハ」と題されたCDを聴きました。

これはベルリン・フィルの首席オーボエ奏者アルブレヒト・マイヤーの演奏による、大バッハのカンタータ作品のオーボエ、コーラングレおよびオーボエ・ダモーレ編曲アルバムです。

伴奏オーケストラは老舗バロック・アンサンブルのイングリッシュ・コンサート、合唱はトリニティ・バロック、録音はロンドンのセント・ポール大聖堂でのセッションのようです。

全18曲の収録曲には、例えばBWV147「心と口と行いと命もて」の、あの誰でも知っている有名な楽章も含まれているなど、総じてメロディの魅力の立ったカンタータ楽章を自由に選んで、それらにオーボエ等のための編曲を施したアルバムという感じになっています。

それらの18曲も、ただバラバラに配置されているのではなく、例えば送別のためのカンタータとして有名な世俗カンタータBWV209「悲しみを知らない人」からは3つの楽章が抽出されているのですが、それらは「オーボエ・ダモーレ協奏曲」として一括りにされていますし、同じく教会カンタータ第54番から抽出された3楽章は、ひとつの「コーラングレ協奏曲」として、また教会カンタータ第31・140・166番から一つずつ抽出された各楽章も、ひとつの「オーボエ協奏曲」として演奏されているのです。

このアルバムは、都内のCDショップで先日、性懲りもなく新譜を物色していた際に目に留まったものです。マイヤーと言えば、一昨年のデッカへのデビュー・アルバム「アルブレヒト・マイヤー/イン・ヴェニス」で耳にしたオーボエの美しい音色が印象に残っていたからです。

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写真左が前回の「マイヤー/イン・ヴェニス」、写真右が今回の「ヴォイス・オブ・バッハ」。

聴いてみると、今回のバッハにおいても、マイヤーの演奏は前回のヴェニスのアルバム同様に素晴らしく、その楽器がオーボエでも、コーラングレ、あるいはオーボエ・ダモーレでも、およそ息継ぎの形跡すら聴いていて分らないほどのメロディの流動感が際立つ、その天衣無縫のフレージングの美しさに聴き惚れるばかりでした。およそヴィブラートを控えめにした、キリリとシャープな響きの結像感が、これほどまでのウェットな美麗さを身に纏うあたり、聴いていて信じがたい気がするほどです。

もっとも、このアルバムは私の当初の目論みとしては、少々誤算だったのかも知れません。実のところ私は、わりと「軽め」のムードの演奏を期待して、このアルバムを求めたのでした。

というのも、最近に私が購入して耳にした新譜として、ティーレマン/バイロイトのリング全曲(CD14枚)、スヴェトラーノフのマーラー交響曲全集(CD14枚)、ヴァント/ベルリン・ドイツ交響楽団のライヴ集成ボックスセット(CD8枚)と、質的にも量的にもヘヴィー級の「大物」が立て続いたため、その反動から、このへんで何か軽めのCDが聴きたいなと思っていたところが、このバッハ・アルバムを見て、これはちょうどいいと思って購入したのでした。

しかし聴いてみると、少なくとも事前に思っていた音楽の雰囲気よりも、ずっと重みのある演奏でしたし、聴き進めているうち、バッハの音楽固有の重みというものが、オーボエの軽やかに浮遊するフレーズを透かして、私に圧し掛かってくるような感覚に捉われたのです。

これはマイヤーの展開する演奏というのが、単に美しい一辺倒でなく、自身のバッハへの深い帰依を拠り所とした、本格的な演奏に他ないものであったからで、要するにバッハの教会カンタータを聴く感覚と、ほとんど変わりがなく、音楽自体が軽くないのですから、それを軽く聴こうという私の気持ちに誤りがあったということになるのでしょう。

そういうわけで、そのあたりは反省しつつ、ここで披歴されているバッハの音楽美と演奏美のユニークな融合とも言うべきものを堪能したのでした。このアルバム、私は今後も定期的に耳にして楽しむつもりです。

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