引き続き、新国立劇場のワーグナー「ジークフリート」の感想


昨日に引き続き、一昨日(2/14)の新国立劇場ワーグナー「ジークフリート」の感想です。

私はオペラの演出というものを、基本的に大きく2つの観点から考えていて、それは演出の「手法」という観点と、演出の「目的」という観点になります。

つまり、その演出の「手法」がどれだけ斬新で意欲的で面白いか、そして平凡な演出を観ていたのでは気がつかない、そのオペラ作品の隠れたビジョンなりメッセージなりを浮き上がらせるという「目的」に、その手法がどれだけ貢献しているか、という観点から演出というものを眺める形になります。

そして、私にとって好感の持てるオペラの演出というのは、その手法と目的とが高いレベルでバランスし合っている演出です。

それを具体的に言うなら、例えば去年の新国立劇場「ヴォツエック」の演出では、このオペラの抱える残酷な側面を、えげつないまでに剥き出しにせしめるという目的なり方向性が如実に感じられましたし、同じく去年の新国立劇場「オテロ」の演出では、水と照明とを巧妙に駆使することで、「オテロ」という演劇が本来的に持つリアリズムの視覚的な増幅が意欲的に試みられていましたし、また昨年のミラノ・スカラ座の「ドン・カルロ」の演出では、このオペラの幾重もの主題の中から、カルロとロドリーゴとの友情という観点にバシッと焦点が当てられていましたし、一昨年の新国立劇場「トゥーランドット」の演出では、その未完成部分(アルファーノの補筆部分)をプッチーニが作曲したスコアから切り離すという意表を突いた目的を果たすために斬新な演出が仕組まれていたのでした。

これらの演出については、いずれも私は過去にブログで「好感の持てる演出だった」という風に書いているのですが、それは演出手法の斬新性だけでなくて、何のための演出であるかという、その目的がハッキリと定まった演出だったからです。

ひるがえって「トーキョー・リング」ですが、キース・ウォーナー演出は手法としては文句なく抜群で、画期的なくらいだと思うのですが、しかし目的に関しては、どうでしょうか?

これだけ大胆な、やりたい放題の読み換えをしておいて、これだけメッセージ性に乏しい演出というのも、また滅多にないのでないか、というのが私の率直な印象です。「労多くして実少なし」というべきでしょうか。

要するに、演出が目的とする収束点が見えてこないので、演出のコアも見えないのです。もしこれが、読み換えの限界に挑戦とか、おもしろおかしい「リング」を作ってみたかったとか、そういう目的の演出だとするなら、収束点が見えないのも当然だと思うのです。

そもそも読み換えというのは、何らかの演出上の目的に基づいて行われるものであって、最終的には収束ポイントに向かって収斂していくはずのものであり、読み換え自体は決して目的とはならないはず、、

しかし、この演出では、どうも観ていて読み換え自体が目的化してしまっている気配がありありと伺えるのです。

そういうわけで、私は別にギャグ的な見せ物に笑ったり、あるいは散りばめられた謎かけ(ジグソーパズル)を解いたりしながら劇を楽しんで観る、という形そのものが問題だと言いたいのではなくて、あくまで演出上の収束点が見当たらないのが問題ではないか、ということなのです。

しかし、この演出には本当に何ら収束点が無いのでしょうか?

仮に収束点があると考えた場合、この演出の性格を考えると、それは必然的に諧謔であって、例えば文明批判のように、何らかに対する批判性の込められたメッセージが観客に対して向けられている、と考えざるを得ないと思います。

その批判性が何を対象としているか、、、そこで唯一考え得る対象は、やはり「トーキョー」なのでしょう。つまりマンガとか、コスプレとか、着ぐるみとか、そういったトーキョー・カルチャーとでも言うべき総体のことです。

あの舞台上の情景が、トーキョー・カルチャーのカリカチュアだとしたら? そして、あの演出の投影する「軽さ」が、「トーキョー」の文化的軽量度のメタファーだとしたら? あの演出を観て笑っている我々を観て笑っているキース・ウォーナー、という図式だとしたら?

こういう意図だとしたら、それはそれで敬服に値する演出とも思えるのですが、もう笑っている場合でもなくなるでしょう。

結局この演出は、何かキナ臭いのですね。演出の持つメッセージ性を考えないなら楽しいが、それだけ。考えるなら、楽しいとばかり言ってもいられなくなる、、、

つまり、どっちに転んでも、やっぱり共感が持てない、というのが本演出に対しての私の結論なのでした。すごく独創的な演出ですし、これで手法に見合った何らかの訴えかけが伴っていたなら、名実ともに「リング」の画期的演出として成功を収めていたような気もするのですが、どうでしょうか。

コメント

 
記事を楽しく読ませていただきました。。
私もブログにワーグナー 楽劇「ニーベルングの指環」第2日
楽劇「ジークフリート」の記事を書きましたので是非読んでください。
http://desireart.exblog.jp/10008918/
よろしかったらブログの中に書き込みして下さい。
何でも気軽に書き込んでください
dezire様 
コメントありがとうございます。

> 私もブログにワーグナー楽劇「ニーベルングの
> 指環」第2日 楽劇「ジークフリート」の記事
> を書きましたので是非読んでください。

記事を拝読させていただきましたが、このオペラ作品に対する、dezire様の深い理解と共感の度合いに、読んでいて感服させられました。

特に、以下の文章は、私も全く同感です。

>ワーグナーの作品の魅力は、活気に満ち語りかけてくる
>ような音楽の推進力、血が通っているような力強い、
>それでいて繊細な音楽表現とテンポの躍動的な変化、
>常に人間の歌声が中心に置かれながら、完璧なまでの
>オーケストレーションに支えられた管弦楽との絶妙の
>バランスです。ワーグナーの音楽は、他のオペラには
>ない人を陶酔させる力があります。ワーグナーの音楽に
>人生を狂わせたワグネリアンが多数いることも、ワー
>グナーのオペラや楽劇に触れると理解できるような気が
>します。

今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。

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