ヴァント/ベルリン・ドイツ響によるブルックナーの交響曲第5番


ブルックナー 交響曲第5番
 ヴァント/ベルリン・ドイツ交響楽団
 Profil 1991年ライヴ PH09042
PH09042

ヴァント/ベルリン・ドイツ響のライヴ集成ボックスセットにつき、前回のベートーヴェンの交響曲集に続いて、ブルックナーの交響曲第5番が収録されたCDを聴きました。

ヴァント指揮のブル5の正規盤としては、ケルン放送響盤、北ドイツ放送響盤、ベルリン・フィル盤、ミュンヘン・フィル盤に続いて、今回のベルリン・ドイツ響盤が5種めのCDということになるはずですが、この中では、とりわけ1996年に録音された2つの録音であるベルリン・フィル盤とミュンヘン・フィル盤が、この作品に対するヴァントの演奏解釈における最高の境地を示すかというほどの圧倒的な演奏内容です。

2010-02-08
左がミュンヘン・フィル盤、右がベルリン・フィル盤です。

今回リリースされたベルリン・ドイツ響盤は、そこまでは流石に及ばないとしても、90年代のヴァントの練達のタクトにより紡がれるブルックナーの素晴らしさに期待して、じっくりと耳を傾けてみました。

ところが驚いたことに、このベルリン・ドイツ響とのブル5は、私の予想を遙かに上回る超絶的なまでの演奏内容だったのです。

上に書いた通り、本演を聴く前、私は愚かにも「そこまでは相対的に及ばないとしても」と思ったのですが、その理由として、ヴァントが96年に録音した2つの同曲の演奏というのが、片や最強オーケストラのベルリン・フィル、片やヴァントに匹敵するブルックナー演奏の大家チェリビダッケの薫陶を受けていたミュンヘン・フィル、それぞれがヴァントのカリスマ的なアンサンブル統制に照応し、そこから至高ともいうべきブルックナー演奏が導き出されているからで、それはおそらく90年代の後半にヴァントが到達したブルックナー表現の高みに、2つの超弩級オーケストラが持てる最高のレスポンスで応えた結果に他ならず、それを90年代初頭の、それもベルリン・ドイツ響への客演である本演に求めるのは難しいのではないか、という先入観があったからでした。

ところが聴いてみると、今回リリースのベルリン・ドイツ響とのブル5のライヴは、かのベルリン・フィル及びミュンヘン・フィルとの96年ライヴのそれに対し、こと表出力という点では同格であるのみならず、むしろ凌いでいるのではないか、とさえ思えるのです。

このベルリン・ドイツ響とのブルックナーを耳にすると、まず先日に掲載したベートーヴェンに対する演奏と同様、ヴァント特有の厳正で緻密を極めるハーモニーの扱い(主要声部と副声部とが強固な秩序をもって共存している!)が聴かれますし、フレージングのニュアンスの精妙さも素晴らしく、圧倒的なフォルテッシモにもかかわらず音響的一体感が全く損なわれていない点や、隙の無い造型の彫刻、充実した音響美、ハイ・スケールのダイナミクス、いずれも尋常一様のものではなく、それは単に聴いていて惚れぼれするというに止まらない、この演奏に対する計り知れない驚嘆の念や畏敬の念を抱きながら、なんと形容すれば良いのか分からないほどの絶大なカタルシスに聴き終えて満たされる、そんな演奏なのでした。

そして、この演奏の素晴らしさが何に起因するものなのか、聴き終えて暫く考えざるを得なかったのですが、到底その結論は出ないまでも、そうではないかという推察までは働きました。

つまり、この演奏におけるベルリン・ドイツ響のアンサンブルには、楽員一人一人の、ヴァントのブルックナー解釈に対する心酔というのか、傾倒の度合いが、ベルリン・フィルやミュンヘン・フィルのアンサンブルのそれよりも、一回り強いのではないか、と思われる節があるのです。

例えば終楽章の(14:38)を頂点としたクレッシェンドの震撼的な迫力などのように、このブルックナーには何か強く激しいものが炎のように噴き出てくるような瞬間が多々あり、それがヴァントの厳正なアンサンブル統制と全く矛盾しないか、そこにはむしろ強い必然性すら感じられるのでした。

そうすると、おそらく当時のヴァントとベルリン・ドイツ響との関係というのは、ベルリン・フィルないしミュンヘン・フィルとの関係よりは、むしろヴァントの手兵オケ・北ドイツ放送響とのそれに近いのではないかと思えてくるのです。

この点、90年代以降ヴァントは、北ドイツ放送響とブルックナーの交響曲第5番の録音を残しておらず、もし残していたら、おそらく今回リリースのベルリン・ドイツ響との演奏に近い、並はずれた表出力の演奏が聴けたのではないかという気がします。

もうひとつ要因を挙げるなら、音質でしょうか。広々としたダイナミック・レンジにして、作為感のない自然な音響的プレゼンスなので、まるで実演を目の当たりにするような雰囲気を聴いていて感じる、秀逸な音質。

以上、このヴァントとベルリン・ドイツ響とのブルックナー5番の91年ライヴは、おそらくヴァントの残した同曲の、一連の珠玉ともいうべき異演盤の中にあっても、一頭地を抜くとさえ思える超絶的な名演であり、それ故こんな凄い演奏がよくも20年近くも眠っていたものだと呆れもしたのですが、ともあれ最終的に日の目を見て、それをこうして耳に出来たことを本当に感謝したい気持ちでした。

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