アムランとタカーチ四重奏団の初共演によるシューマンの室内楽アルバム


シューマン 弦楽四重奏曲第3番、ピアノ五重奏曲
 アムラン(pf) タカーチ四重奏団
 ハイペリオン 2009年 CDA67631
CDA67631

ハイペリオンから先般リリースされた、タカーチ四重奏団の演奏によるシューマンの室内楽アルバムを聴きました。

シューマンの弦楽四重奏曲第3番とピアノ五重奏曲を組み合わせた内容ですが、ピアノ五重奏曲ではピアノ・ソロを、現代屈指のヴィルトゥオーソピアニスト、マルク=アンドレ・アムランが務めていて、アムランとタカーチ四重奏団という豪華な共演が実現されているのが興味を惹きます。

聴いてみると、最初の弦楽四重奏曲第3番においては、全編において安定した構成感からシューマンならではの幻想的な詩味や叙情性が曖昧なく披歴されていて、聴き進むほどに、その演奏の深い味わいが心に沁み入ってくる思いでした。

「幻想的」なのに「曖昧なく」というのは矛盾のようですが、キリッと音像を構成すればするほど、シューマンの音楽の根底に潜んでいる漠とした幻想性、いわばロマン派の情念のようなものが、音楽の表面に立ち現われるというような、そんな感覚ですね。ここぞという時の内燃的なパッションのほとばしりも素晴らしく、ハンガリーの団体でありながら、ドイツものを演奏させたら当代随一のカルテットとも言われる、タカーチ四重奏団の実力がいかんなく発揮された演奏だと思いますし、ブリストルのセント・ジョージ教会のまろやかな残響特性にしても、ここでのシューマンの音楽の性格を考えると、おそらく絶妙ではないでしょうか。

続くピアノ五重奏曲ですが、これがまた素晴らしく、その立役者は何といってもアムランのピアノ・ソロです。

ここでのアムランのピアニズムは、持ち前の超絶技巧を存分に駆使しながら、シューマンの想定する複雑なピアノの書式に対して何らの曖昧さも残さず、この上ない明晰性でバリバリと音化していきます。明晰に音化すればするぼどシューマンの幻想的詩味が増すというあたりは、まさに先の弦楽四重奏曲第3番と同じ図式であり、その意味では弦楽カルテットとソロの方向性は軌を一にしたものですし、両者の息もピタリとあっていて申し分がありません。

しかし、それ以上に私がこの演奏を素晴らしいと感じるのは、全編においてアムランのソロに闊達な訴求力が漲っていて、それが聴いていて痛快極まりないからです。

この点、私は今年の春先にリリースされた、アムラン初のショパン・アルバムを耳にした時、その感想として、その演奏技術の凄さに感心しつつも、「このピアニストでなければまず聴けないというような主観的な色付けを伴う表出力の化体の度合いが、このアムランのショパンには相対的に乏しい印象が否めず、そのため圧倒的な技術力のわりには、いまひとつ胸に迫り切らないような煮え切らなさが残ってしまった」と書いたのですが、要するにテクニック以外の主観的な色付けを伴う表出力の化体の度合いが希薄と思えた点が不満だったのでした。

それが今回のシューマンでは、スタンスがかなり変化しています。例えば、第1楽章の冒頭でメインのテーマがピアノ・ソロにより強奏提示されるところ、ここをアムランは渾身の力を込めた最強奏で弾き出し、初手から音楽に対する並々ならない意気込みを披露するのですが、ここは実は、スコア上は音量がf1つとなっていて、普通はこれほど大胆な打ち込みはしないところです。しかしアムランはそんなこと構うかとばかりにフォルテッシモで出します。

そうすると、この同じテーマが再現部のアタマでf2つの音量で提示される段ではどうするのかと思って聴いていると、その段(6:12)においては、やはり冒頭と同じくらいの強烈さで押し切っています。つまり明らかにダイナミックレンジを本来のシューマンの指定よりも拡張し、たとえf1つであろうと自分がフォルテッシモだと「感じる」ところでは自分の感性を優先してフォルテッシモを付与している、そんな主観的な演奏スタンスが伺われるのです。

以上は一例に過ぎず、このシューマンにおいてはアムランならではの主観的な色付けが随所に聴かれ、それが技術一辺倒でない、根元的な表出力に昇華されたような趣きが強く、タカーチ四重奏団という強力なバックアップを得て、聴いていて音楽が痛切に胸に迫ってくるような表情の強さとして結実されている、そんな感じがします。

それにしても、仮にアムランがこれほどの表現力を完璧に備えたとなると、テクニックが無上であるだけに、それこそ鬼に金棒どころの騒ぎではないと思うのですが、この演奏はタカーチ四重奏団との初共演という要因からくる変異的なものである可能性も、また拭いきれないように思うので、今後も同じ顔合わせでの共演が継続リリースされるか否かは分かりませんが、いずれにしても今後の動きに注目してみたいと思います。

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