ヨーヨー・マとマゼール/ベルリン・フィルによるドヴォルザークのチェロ協奏曲


ドヴォルザーク チェロ協奏曲、森の静けさ、ロンド作品94
 ヨーヨー・マ(vc) マゼール/ベルリン・フィル
 ソニー・クラシカル 1986年 SRCR2675
SRCR2675

私は先週、サントリーホールでバイエルン放送交響楽団の来日公演を聴き、そこでヨーヨー・マ独奏のドヴォルザーク・チェロ協奏曲の実演に接し、ひとかたならぬ感銘を受けたのですが、その余韻がまだ冷めないうちとばかりに、ヨーヨー・マが初めて録音したドボコンのCDを久しぶりに聴いてみました。ここでの伴奏はロリン・マゼール指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団です。

これは既に世評の高い録音ですし、私などが演奏について今更何か言うこともないのかも知れないですが、マゼールの展開するスロー・テンポの上で、若き日のヨーヨー・マが繰り出す会心のチェロ独奏の切れ味が素晴らしく、演奏全体の充実感も惚れぼれするばかりですね。ドボコンの多くの録音中でも特筆すべき名演でしょう。

ですが、先週ヨーヨー・マの実演を耳にした上で、このCDを改めて聴いてみると、やはりチェロの対オーケストラバランスが、やや不自然な感じに映りました。

もちろんそれは実演を基準とした上での不自然さなので、CD録音としては全く標準的なバランスなのですが、ここでのベルリン・フィルが表出する響きの、破格なくらいの恰幅の良さと、圧倒的な重厚感に対し、ヨーヨー・マのソロががっぷり4つに受け止めているように聴こえるのは、やはり録音のマジックなのだなと聴いていて思わざるを得ません。

とはいえ、それは別に深く突っ込むような話でもなくて、実演は実演、CDはCDと切り離して捉えればすむことですし、普通は誰でもそういう感覚で聴いているものだと思います。

それよりも、私が今回このヨーヨー・マのドボコン初録音を聴き、それを先週の実演での印象とひき比べて興味深く思ったのは、ボウイング表情の違いに関してです。確かに本CDにおけるヨーヨー・マのソロ演奏は、凄いのですが、実演での呆気に取られんばかりだった、あの変幻自在ともいうべきボウイングの変わり身という点においては大人しくて、ひいては物足りない気がしたのでした。

そして、実演で聴かれたボウイング表情の多彩感という点においては、この初録音よりも、むしろ再録音盤の方に強く出ているのではないかと思い、そちらも聴いてみたのですが、やはりそうで、ことヨーヨー・マのソロ表情に関しては、初録音盤よりもマズア/ニューヨーク・フィルとの再録音盤の方に、先週の実演と明らかに近しい雰囲気が感じられました。

SRCR2675-2
左が初録音盤、右が再録音盤です。

ヨーヨー・マが録音したドボコンは現在、上記の2種のみですが、この両演奏におけるコンセプトの違いを、ヨーヨー・マ自身が述べたくだりが、再録音盤のライナーノートに掲載されています。

それによると、彼は新録音では初録音の演奏よりも「旋律の下にあるものを重視した」と述べているのですが、まず「ドヴォルザークを他の作曲家と隔てているもの」を「信じられないようなリズムの変化の発明」にあると規定した上で、「旋律の下にはリズムの絶対的な秩序がある」ことを発見し、10年前の自分だったら旋律を歌うことをとにかく重視したのに、今ではメロディの下にあるものを掬い出すことにより、この作品をさらに美しく聴かせたい、と述べています。

それでは、演奏もそうなっているのかと言うと、これは確かにそうなっていることが分かります。例えば第1楽章のソロ提示部の冒頭で、あの有名な主題をソロが出すところのボウイングを、両盤で対比すると、初録音盤ではかなりメロディアスにゆっくりと弾き出しているのに対し、新録音盤では勢いよく雪崩れ込むように弾き出しつつ、メロディの流れよりもリズム感を強く押し出したボウイングを披歴していることが、はっきりと伺われます。

おそらく初録音においては、大家マゼールの提供する伴奏のワクが、良くも悪くもヨーヨー・マのソロの方向性を規定していたのではないかと思われます。というのも、あの異様に遅いテンポでは、リズミカルに弾こうと思っても自ずと限界があるからで、逆に新録音だと、メロディにリズムを交えたボウイングの切り分けが、よりはっきりと打ち出されている感じがします。

この意味において、先週の実演でヨーヨー・マが披露した千変万化のボウイングの妙に近いのは、明らかに新録音だと思うのですが、それでは新録音と同じかと言うと、これがまた違っていて、実演ではさらに音色自体の魅力がぐっと深化していたように私には思われてなりません。つまり、先週の実演を踏まえた上で、改めてヨーヨー・マの2つの録音を耳にしてみると、何だかヨーヨー・マの、このドヴォルザークのチェロ協奏曲という巨大な作品に対する演奏スタンスの進化の過程が、うっすらと見えてくるような気がしたのでした。

ヨーヨー・マは、特に21世紀に入ってから新譜リリースの頻度がグッと減っていて、それもクロスオーバー的な演目にかなりシフトしているように思うのですが、例えばベートーヴェンのチェロ・ソナタ全集とか、バッハの無伴奏チェロ、あるいはドボコンなど、いずれも今現在もし再録音したなら、旧盤とはまた一味もふた味も異なる名演に結実するのではないかと、そんな予感が私には有ります。

多分そのうちに出てくると思っているのですが、そういう状態がもう何年も続いているので、少し気になりますね。

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