ヤンソンス/バイエルン放送響によるブルックナーの交響曲第7番


ブルックナー 交響曲第7番
 ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団
 BrKlassik 2007年ライヴ 4035719001
4035719001

マリス・ヤンソンスがバイエルン放送交響楽団を指揮した、ブルックナー交響曲第7番のCDを聴きました。

これはドイツのバイエルン放送が新たに立ち上げた「BR KLASSIK」レーベルから先月リリースされたもので、2007年11月にウィーン・ムジークフェラインザールで行われたコンサートの演奏がライヴ収録されています。

それでひと通り聴いた印象としては、これは名演に違いないという確信が一方にあるのですが、もう一方において、そう確信することへの一抹の抵抗感も拭えないという、ちょっと微妙な位置にある演奏だなと感じました。

この演奏において掛け値なしに素晴らしいと感じたのは、バイエルン放送響の奏でる音響の、驚くべき充実ぶりです。大編成の利もあるのでしょうが、とにかく響きが分厚く、音色が芳醇で、ひとつひとつのフレージングのズシリとした質感も素晴らしく、これほど味の濃いブルックナーを現代において耳にし得るということ自体が新鮮な体験という気がしますし、それこそ聴いていて嬉しさが込み上げてくるような思いに駆られるほどでした。

これにはバイエルン放送局の録音技術の優秀さ、あるいはSACD仕様の音質の利といった要素もあるとしても、おそらく根本的にはオーケストラの卓抜した合奏能力に起因するものではないかと思い到りました。

なにしろポテンシャルの高いオケですので、ここぞという時の表出力が抜群ですね。第1楽章で言うなら、中盤(10:59)からのモルト・アニマート(第233小節)でffまで登って、その8小節後でfffまで登っていく所など、f2つとf3つの違い、つまりf3つの驚異的な迫力が見事に表現されていて、これでこそという気がしますし、あるいは第371小節(16:30)で、それまでpppだったのがいきなりfになり、そのすぐ2小節後に(ffを飛び越して)fffに移るあたりなども聴くと、やはり同様にデュナーミクの表面的な切り分けに留まらない、音響密度の鮮やかな集約というべきものが披歴されていて惹き込まれてしまいます。

アンサンブルのバランスにしても、例えば弦を抑制して管のパッセージを相対的に浮き上がらせるといった、小細工と言って悪ければ技巧とは無縁と言わんばかりの、弦の厚みを十分に活かしたボリューム満点のアンサンブル展開なのですが、それでは管パートが埋もれるかというと、全然そうでないところが凄いもので、ここぞとばかりに厚い弦の音幕を軽々と突き抜けて響きわたるホルンやトロンボーンの強奏など、まさに壮観の一言に尽きます。

以上のようなオーケストラの合奏面での美質に対し、ヤンソンスの指揮はと言うと、全体にオーソドックスを地で行く表現というのか、特に個性を振りかざすことはせず、ひたすら誠実に、バイエルン放送響という名器を通してブルックナーのスコアを音化することに徹している、そんな佇まいです。

それはいいのですが、私が聴いていて引っ掛かったのは、ヤンソンスの表情形成がどうにも大人しいというのか、その音楽の流れが穏健な方向に大きく傾斜している点で、局面によっては少し緊張感不足かなという印象を正直感じました。こと迫力は素晴らしいのに、その迫力にある主のトゲというか牙が伴わない物足りなさ、というべきでしょうか。

例えば第2楽章で言うなら、中盤のクライマックスたる第177小節のところ(17:04)で、ノヴァーク版なのでシンバルやトライアングルが打ち鳴らされるのですが、それらがいかにも申し訳程度に鳴らされていて、トライアングルなど注意して聴かなければ鳴っているのかいないのか分からないほどです。これならわざわざノヴァーク版でやらなくても、ハース版で十分だと思われますし、ティンパニも全曲とおして抑制一辺倒ですし、弦のアタックも総じてまろやかですね。

繰り返しますが、このブルックナーはオーケストラの音響的な充実度が驚異的な水準にあるので、確かに聴いていてドイツ本場のブルックナーを聴く喜びが胸に沁み入る思いがします。しかし沁み入る以上の心揺さぶられるような気持ちには誘ってくれない、というあたりに一抹の物足りなさがあるというのが、この演奏に対する私の率直な感想です。

もちろん無いものねだりと言ってしまえばそれまでですが、せっかくここまで見事なブルックナーなのだから、という気持ちが私の中に浮かんだのでした。特に第3楽章などは、もっと牙を剥き出しにしたような苛烈さが欲しいですし、全体にヤンソンスがブルックナーの音楽を、もっと自分の側に引き寄せてみたらどうかという、ある種のもどかしさを聴いていて感じました。

あれこれと書きましたが、いずれにしても、この演奏は名演に違いないという確信を聴き終えて感じたことは前述の通りですし、SACDならではの高音質の利もあり、全体としては近年まれにみるほどに味の濃いブルックナーを、久々に堪能させてくれた一枚でした。

コメント

 
初めてお目にかかります。KIKUと申します。
classic歴はまだ短く、勉強中で、限られた予算の中で色々と聴いています。
個人でここまで充実された感想を書いていられるのは凄いですね!

今回ブルックナーの7番を色々探していたので参考にさせていただきました。
こちらのCDはタワレコの方で試聴する機会があったときに非情に美しく迫力のある演奏だなと感じたのですが、流石に1時間以上も試聴するわけにいかなかったので、全体を通した感想があってすごく助かりました。
もちろん買ってみて期待はずれだったと文句は言いませんのでご安心を(笑)
ジュリーニ・BPOと迷っていたのですが、こちらを買ってみるきになりました。

今後とも色々参考にさせていただこうと思います。
KIKU様
初めまして、コメント有難うございます。

> 今回ブルックナーの7番を色々探していたので
> 参考にさせていただきました。

あくまで私なりの感想を、正直に掲載しているだけではあるのですが、何らかの御参考になれば私としても望外の喜びです。

このヤンソンスのブル7は、ヤンソンスを聴くというより、どちらかというと「バイエルン放送響のブルックナー」を聴くという色合いの強い演奏だと思います。

オーケストラの充実度としては、おそらく会心に近い水準だと思われますので、指揮者の主観的な色づけに拠らずに、純粋にブルックナーの音楽を堪能したい、という欲求をお持ちであるならば、大いに傾聴に値するCDではないかと思います。
hkawahara様

お返事ありがとうございます。
先日タワレココインがあまってたこともあり(期限は11日まで)早速買いにいきました。
まだ深くは理解できていないのですが、本当にブルックナーのイメージと合った演奏という感じがします。
何よりもブルックナーらしいブルックナーの7番を完璧な演奏で聴きたいと思っていたので個人的には大満足です!
今まで6枚ほどブル7番を聴いてきましたが、当分私にとってのベスト盤になりそうです。

レビューをしていただきありがとうございました。大変参考になりました。
また今後とも期待しています。
それでは失礼します。

コメント

 
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

Powered by FC2 Blog
Copyright © クラシックCD感想メモ All Rights Reserved.