安永徹のベルリン・フィル退団記念コンサートのライヴ盤


安永徹のベルリン・フィル退団記念コンサート
 安永徹(vn)、ベルリン・フィルの弦楽メンバー
 Ippnw 2009年ライヴ IPPNW66
IPPNW66

世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの第一コンサートマスターを1983年以来務めてきた安永徹は、周知のように今年2月のコンサートを最後にベルリン・フィルを退団されたのですが、その退団を記念した室内楽コンサートのライヴCDがドイツIppnwレーベルより先月リリースされました。

2009年2月1日ベルリンのフィルハーモニーでのライヴで、演目は以下の3曲です。
①ドニゼッティ 弦楽四重奏曲第5番
②ブルックナー 弦楽五重奏による間奏曲ニ短調
③チャイコフスキー 弦楽六重奏曲「フィレンツェの思い出」

上記①~③いずれも、本来の編成に対しコントラバスが追加された形で演奏されています。したがってドニゼッティは弦楽五重奏、ブルックナーは弦楽六重奏、チャイコフスキーは弦楽七重奏曲の形態でそれぞれ演奏されていることになります。

ここでの演奏者は安永氏を始めとして、第2ヴァイオリンにはアレッサンドロ・カッポーネ、ヴィオラにはヴォルフラム・クリスト、チェロにはルートヴィヒ・クヴァントというように、アンサンブル全員がベルリン・フィルの弦楽奏者によって構成されています。

その演奏を聴いてみると、最初のドニゼッティにおいては、編成が比較的小さいことと、作品の性質によるのか、安永徹のヴァイオリン・ソロにおいては、力を抜いてリラックスした構えから繰り出される、スムーズなメロディの動きやソノリティの美しさが素晴らしく、他の4人のメンバーとともに、カチッとしたアンサンブルからアットホームな音楽の表情が形成されていて、そのこなれた合奏の佇まいに率直に魅了されたのですが、これが次のブルックナーになると、編成の増加と作品の禁欲的なムードに伴い、ピリッとした緊張感のようなものが合奏に付帯し、アットホームな雰囲気は残しながらも、次第に本格的なアンサンブルの構えに移行していくようなずしりとした手ごたえが、先のドニゼッティよりもひとまわり強い印象を演奏に纏わせています。

そして最後のチャイコフスキーになるや、第1楽章冒頭から安永徹の迫真ともいうべきボウイング展開が耳を捉え、そのまま最後まで捉えて放さない、まさに入魂の演奏というべきでしょうか、とにかく聴いていて激しく心揺さぶられる演奏です。なかんずく再現部冒頭でメインのテーマが最強奏で出る(6:27)での研ぎ澄まされたヴァイオリン・ソロの表出力など、本当に惚れぼれしますし、合奏全体の緊密な一体感や求心力もただごとでなく、ことにコーダに入ってものすごい加速を経た、全力疾走のアンサンブルが一糸乱れぬあたりなど耳にすると、ああこれがベルリン・フィルなんだと、今さらながらに納得させられてしまいます。第2楽章以下も同様に素晴らしく、終楽章などは何か万感の思いの籠ったような、聴いていて怖いほどの迫真の表情に満ち、聴き終えて改めて、その演奏のひたむきさに心打たれる思いでした。

正直、私はこのCDを聴く前は、そのフェアウェルコンサートという位置づけから、おおよそ演奏としても最初から最後までリラックスした気楽なムードのものはないかと想像していて、半ばそのインティメートな雰囲気を味わうつもりでプレーヤーに掛けたのですが、いざ聴いてみると、コンサート中盤以降は気楽どころかむしろ真剣勝負の気概が演奏に立ち込め、最後のチャイコフスキーに到っては気魄に溢れた圧巻ともいうべき熱演となっていたのでした。そもそも1977年の入団以来、30年以上にもわたり務めたベルリン・フィルを退団する記念コンサートというものの重みを、いささか軽く考えていた私自身を恥じる思いがしましたが、同時にこれほど充実を極めた、安永徹会心の演奏を耳にしたことによる、その余韻と感動とは、聴き終えてからも容易に私を解放してくれませんでした。

以上のようなことから、私は本ディスクを一人でも多くの方が耳にして頂きたいと願って止みません。

もちろん本ディスクが既に大評判になっているのなら、こんなことは敢えて言わないのですが、少なくとも現状において、どうも全くと言っていいほど話題になっていないようですので、あまりにも勿体ないと思い、僭越ながら書き添える次第です。

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