鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンによるバッハ・ブランデンブルク協奏曲全曲の08年録音盤


J.S. バッハ ブランデンブルク協奏曲全曲、管弦楽組曲全曲
 鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパン
 BIS 2008年(協奏曲)、03年(組曲) BISSA1721
BISSA1721

今日は、鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏によるバッハ・ブランデンブルク協奏曲集の最新盤をひと通り聴いてみました。

これは先月発売されたディスクで、ブランデンブルク協奏曲全6曲に、同じくバッハの管弦楽組曲全4曲を併せた、SACDハイブリッド3枚組でのリリースです。もっとも管弦楽組曲の方は2005年に単独でリリースされたものをボーナス的に再収録したもので、価格もCD2枚組相当となっています。

今回のブランデンブルク協奏曲集は鈴木雅明/バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏としては、これが2回目の録音となり、2001年にリリースされた前回の録音(BIS1151、2000年録音)から、8年ぶりの再録音ということになります。

その前回録音のブランデンブルク協奏曲全曲盤は、それこそBCJのアンサンブルを磨き抜いて描かれたような、精緻を極めて一分の隙もない、見事なまでのバッハでしたので、あれを超える演奏というのが果たして可能なのかという興味が、演奏自体の純粋な期待感とは別に、私の中に少なからずありました。

それで聴いてみたのですが、今回の新録音は、前回リリースの旧録音とは、様式的にも、雰囲気的にも、いろいろな点でずいぶん違うなというのが率直な印象です。

2009-10-11
左が今回の新録音、右が旧録音です。

まず今回の新譜には、ライナーノートに鈴木雅明氏自身によるプロダクション・ノートが英文で掲載されているのですが、それによると、この新録音においては、ブランデンブルク協奏曲の表現の可能性を広げるために、演奏において2つの「実験」を試みたということが述べられています。

その「実験」というのは、ひとつが復元楽器「ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ」の使用で、もうひとつが、協奏曲第3番の第2楽章に対して「3台のハープシコードのための協奏曲」BWV1064の第2楽章を転用することであると書かれています。

「ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ」というのは肩に担いで演奏する小型チェロで、バッハの時代には普通に用いられていたものの、その使用が時代とともに次第に廃れていった楽器とされています。したがって、演奏に際してはチェロよりもヴァイオリンに近いテクニックが必要となり、当全集でも協奏曲第4番ではフランソワ・フェルナンデスが、協奏曲第6番では寺神戸亮が、それぞれ奏者を務めています。

協奏曲第3番の第2楽章に関しては、プロダクション・ノートに書かれているところによると、この作品は特に3という数字にこだわって作曲された形跡があり、バッハの他作品の中から、その3という数字にこだわりがあるものを探すと、唯一BWV1064の協奏曲が該当するので、その第2楽章を当てはめてみたのだそうです。

以上の2つが、今回の新録音における演奏様式上の主な特徴となるようですが、それでは旧録音での様式上の特徴であった「弦楽器の各パートを奏者一人で演奏する」という点が、今回はどうなっているかと思って、編成表記を見てみると、例えば協奏曲第1番では第1ヴァイオリンが2人、第2ヴァイオリンも2人となっているので、今回はどうやら各パートに奏者一人ではない、むしろオーソドックスなバランスのようです。

このように、今回の新録音は、旧録音とは編成バランスが違う上に、2つの「実験」という新機軸も加わっているので、この時点でまず、様式的にずいぶん違う感じがするのですが、それでは雰囲気としての違いはどうかと言うと、ここからはあくまで新旧両演奏を聴き比べての私の印象になるのですが、新録音は旧録音よりも何となく落ち着いた雰囲気というのか、総じて演奏の表情が穏やかで、まろやかなムードに富み、少なくとも聴いていて心地よい快感に誘われる割合においては、全体的に旧録音を凌いでいるように感じられました。

これは別に旧録音の表情がとんがっていて落ち着かないという意味ではなく、旧録音の表情から、さらに熟成を増したようなアンサンブルの醸し出す、こなれきった音響の和みの表情において一種独特のものがあって、それが音楽の雰囲気に、前回とはまた違った奥行きをもたらしめているように思われる、ということです。

加えてヴィオロンチェロ・ダ・スパラ特有のおっとりとした響きの特性や、前回よりも心持ち遅めなテンポ設定(特に協奏曲第1番の第4楽章は、前回録音よりも1分以上タイムが伸びています)もあり、前回録音時の、それこそ一分の隙もなく織り上げられたような表現からすると、今回はリラックスしたスタンスとまでは言わないとしても、やや余裕のあるスタンスでの音楽造りという感じがします。

したがって、部分的には、表情が幾分おっとりしているような印象も受けるのですが、それだけに「温か味のある演奏」という印象も強くて、そのような心地よい開放感が、私には聴いていて何より印象深く感じられました。と同時に、聴く前に頭に思い浮かべた、今回の新録音が前回の録音を超えるとか超えないとかいうような、いかにも浅薄な視点を抱いた自分を恥じる思いでした。

以上、今回リリースされた鈴木雅明/BCJのブランデンブルク協奏曲全集は、まさに現在のBCJの、バッハ演奏に対する熟成したスタンスを投影させたかのような、温か味ある佇まいが素晴らしい珠玉の名演であり、純器楽的には最高の境地とさえ思われた旧録音とは方向性を異にしながらも、さらにこれほどまでの演奏を打ち出すことのできるBCJのアンサンブルとしてのポテンシャルと懐の深さに、あらためて感服させられました。

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