ズヴェーデン/オランダ放送フィルによるワーグナー・楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全曲


ワーグナー 楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」
 ズヴェーデン/オランダ放送フィル
 Volkskrant 2009年ライヴ QL2009014S
QL2009014S

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏による、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」全曲盤を今日、ひと通り聴きました。

これは今月リリースの新譜で、オランダのVolkskrant新聞社から発売されたものです。収録内容は2009年2月のオペラ公演のライヴのようで、終演後のカーテンコールの様子まで収録されていました。

歌唱陣でひときわ目につくのは、オランダのバス・バリトンで、日本でも人気のリート歌手ロベルト・ホルがハンス・ザックスに配されている点でしょう。また数年前、小澤征爾の指揮によるウィーン国立歌劇場のプッチーニ「マノン・レスコー」のプロダクションで、外題役マノンを演じたバーバラ・ハーヴェマンがエヴァ役に配されています。ワルター役はブルックハルト・フリッツ、ベックマッサー役はアイケ・ヴィルム・シュルテです。

ズヴェーデンはオランダ放送フィルの首席指揮者を2005年から務めていて、このコンビによるブルックナーの交響曲の一連の録音はいずれも日本で高い評価を得ていることは周知の通りですが、それがワーグナーの、しかもライヴ録音でどのような表現が聴けるのか、そのあたりの興味と期待感から購入してみました。

それで聴いてみると、まず第1幕の前奏曲冒頭の打楽器の凄い打ち込みからして、演奏に対する期待感を一気に高めるに十分なものでしたが、それから例のマイスタージンガーのメイン・テーマが提示され、フルートにエヴァの動機が歌われる(1:02)に到るまで、すこぶるダイナミックで張りのあるオーケストラ・ドライブが披歴され、(2:30)からフォルテッシモで芸術の動機が繰り出されるに及んで、その演奏の素晴らしさに聴いていて早くもノックアウトという有り様でした。

ここでのズヴェーデンはオランダ放送フィルのアンサンブルを自在に駆使して、綿密にして細やかな表情の変化から巧みな音楽の流れを創り出しているのですが、そこでは弦楽器の美しくまろやかな響き、管楽器の明朗で柔らかな響きなど、耳を楽しませる音響的な感覚美に富んでいながら、同時に聴いていて身が引き締まる造型的な緊張感を導出するという離れわざを、事も無げに為し得ている点に驚きを禁じえない、そんな演奏です。

そんなズヴェーデンの展開する前奏曲を、それこそ胸高鳴る気持ちで聴き入っていると、天空に駆け上がるようなクレッシェンドの頂点(9:19)からマイスタージンガーのメイン・テーマが、圧倒的な高揚力をもって最強奏で出された後、すぐに幕が開いて礼拝の壮麗な合唱が耳に飛び込んできます。それにしても、このオペラ幕開けにおける、これでもかというような音響的な畳み掛けは、さすがにワーグナーというのか、音楽それ自体がもう、絶品としか形容しようがないほどで、何度耳にしても本当に惚れぼれしてしまいます。

ズヴェーデン/オランダ放送フィルのアンサンブルの充実感は本編においても相変わらず見事で、その緩急を柔軟につけながらも崩れのない造型の取り方など、おおむねワーグナーの様式美を十分に尊重した上での、正攻法の演奏展開に立脚しながら、フレーズの安定感といい、デュナーミクの巧みなコントロールといい、いずれも堂に入っていますし、コクのあるハーモニーの味わいも素晴らしく、本場ドイツのオーケストラの演奏でも、なかなかこうはいかないのではというくらいの、アンサンブルの広範なダイナミクスと演奏のスケール感に、聴いていて感嘆させられるとともに、オランダ放送フィルの技量の高さにも改めて感心させられるものでした。

ザックスを歌うロベルト・ホルですが、師であるハンス・ホッターゆずりの風格というのか、歌いぶりがとにかく貫禄たっぷりで、どのフレーズひとつとっても深みを絶やさない、スケール豊かな歌唱を披歴しています。その点は確かに立派なのですが、しかしこの役柄に対する適性としては、ちょっとどうかなという気も正直しました。

というのも、全体に貫禄があり過ぎるというのか、例えば第1幕で、マイスター達に「人民を裁判官に」と主張するところなど、いささか古老がかった風格が出過ぎて、かえって説教臭い感じがしてしまったり、色々な意味で重みがかった歌唱形態が、聴いていてところどころで引っ掛かる感じがしました。もちろん単独のアリアなどは圧倒的な深みが歌唱に伴うので、どちらかというと、やはりオペラよりもリートの人なのではないかと、そんな印象もよぎりました。もっとも、ザックスというと私の中ではベルント・ヴァイクルがスタンダードなので、そのあたりの印象の違いからくる違和感なのかも知れませんが、、

他の歌手に関しては、それぞれに人を得た万全の歌唱が披歴されていて、安心してワーグナーに浸れるものでしたが、中でもワルター役のブルックハルト・フリッツの歌唱にひときわ魅了されました。1970年ハンブルグ生まれのテノールとのことですが、ここぞと言う時に、往年のルネ・コロを思わせる陶酔的なまでの美声を披露し、こと表出力という点でロベルト・ホルとも互角に渡り合っていて凄いなと思いました。

コメント

 

コメント

 
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

Powered by FC2 Blog
Copyright © クラシックCD感想メモ All Rights Reserved.