ウィーン・フィル来日公演の感想


ウィーン・フィル来日公演(サントリーホール 9/17)を聴いての感想です。

オーケストラ編成は16型、配置はステージ向かって左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンと並べた変則対向配置で、第1ヴァイオリンの後方にコンバス、チェロの後方にティンパニ、ヴィオラの後方にハープという陣形をとり、大ホールのステージからはみ出さんばかりに陣取ったウィーン・フィルのアンサンブルというのは観ているだけでも壮観でした。

まずバルトークの「管弦楽のための協奏曲」ですが、第1楽章は冒頭の弱奏進行からさざ波のように広がる弦の音幕を起点にピリッと引き締った響きが立ち込め、緊張した佇まいがホールを満たし、この作品としては上々の滑り出しと感じました。主部のアレグロに移ってからは快適にして流暢なアンサンブル展開が爽快な気分を呼び起こす、そんな演奏で、推進的なテンポから管パートの音色が軒並み冴えていましたし、ことに展開部終盤の壮大なカノンから再現部に突入するまでのところで、金管パートの味の濃い音色が繰り広げる畳み掛けの迫力に思わずゾクゾクしました。

第2楽章に入ると主役は木管パートに移るのですが、ここではファゴットといいオーボエ、クラリネット、フルートといい、ウィーン・フィルならではというような響きの色彩感が冴えていて惹き込まれました。この楽章でこんなにエレガントな演奏が可能なのかとビックリしたくらいですが、ここでもメータはかなり速めのテンポで何らもったいぶらずに歩を進めるという風で、やや含みに乏しいとしても、竹を割ったような潔さでアンサンブルを巧く取りまとめていたように思います。

第3楽章は圧巻というべきで、当夜の白眉と感じました。冒頭のオーボエが吹く主題、それを彩るフルートとクラリネットのアルペジオ、これらが織り成すこの世ならぬ音響美から早くも別世界というのか、聴いていて違う世界にスッと吸い込まれるような感覚に襲われたほどでしたし、楽章全体を通して、どんなCDや実演からも聴くことあたわざるような、超常的にして幽玄なソノリティが、精妙かつ艶やかなウィーン・フィルのアンサンブルから鮮やかに立ち現われるのを、陶然とした面持ちでひたすら聴き入るとともに、その感動に震える思いでした。これにはウィーン・フィルの力量に加えて、コンサートミストレスを務めたダナイローヴァの女性的な感性が、何らかの影響を及ぼしていたような、そんな気もしました。

第4楽章に移ると先の第2楽章同様、エレガントの極みという風で、この楽章の性格からすると、もう少しグロテスクな色合いが強くても、とも思われましたが、中間部の雰囲気などウィンナワルツみたいで、ウィーン・フィルらしい演奏だなと感じました。つづく終楽章は冒頭のウィンナホルンの豪快な咆哮で幕を明け、素晴らしいレスポンスのアンサンブルが手に汗握るドライブを披露し、その絢爛たる色彩感も含めて管弦楽的な醍醐味に満ち、聴いていて否応なく酔いしれましたし、おまけにここではウィーン・フィルならではの興味深い光景をも目撃することができました。

興味深い光景というのは、終楽章後半の弦のフガートに入る直前、ティンパニがロール打ちをするのですが、この場面で隣の小太鼓奏者が、おもむろに立ち上がり、ロール打ちに合わせてティンパニのハンドルを操作し、また着席するという一連の光景です。

これは割り合い有名な話ですので、御存じの方も多いと思いますが、一応書きますと、ウィーン・フィルは楽器の伝統をかたくなに守るオーケストラであるため、ティンパニにおいても現在一般に普及しているペダル・ティンパニを使用せず、昔ながらのハンドル式マシーン・ティンパニを使用しているのですが、これだと音階移動の際、もしティンパニ奏者の両手が塞がってしまうと、ハンドル操作ができないので、そのような場合、他の団員が臨時にハンドルを操作して切り抜けるという工夫をするということです(詳しくは金子建志編著・立風書房「オーケストラの秘密」P.172参照)。

そういうことを話には聞いていたのですが、実際見るのは初めてで、見ていてなるほど大変だなと思いましたが、そこまでしても守りたい彼らの伝統というものの重みに、何となく意識を向けられた気がしましたし、そのあたりのウィーン・フィルの演奏姿勢に対し、改めて敬意を喚起させられもしました。

以上、初めて耳にした「ウィーン・フィルのオケコン」に対する、全体的な印象として、聴いていて魅力的なシーンも多々あったのですが、同時にそれらはバルトーク的なアトモスフィアとはややかけ離れた雰囲気でもあり、特に第2楽章や第4楽章などは、もっとグロテスクさというかドス黒さというか、ある種のオカルト的なムードというか、そういう色彩が欲しい気もしました。とはいえ、それと引き換えにウィーン・フィルならではの刻印がなされていたのは確かだと思いますし、こういう洗練を極めたような音響美のバルトークというのも、いいものだなと結局は納得させられてしまう、そんな演奏でした。

後半のベートーヴェンですが、前半のバルトークの16型をそのまま継続しての、ボリューム感のある演奏でした。メータの指揮は概ね速めのテンポで、第1楽章の提示部を反復しないかわりに第2楽章に移る際アタッカで繋げていたのですが、それ以外は良くも悪くも、絵に書いたようにオーソドックスな運用でした。表情としてあまりに「ふつう」なので、ほとんどウィーン・フィルに下駄を預けてしまったかとも聴いていて思ったのですが、しかしよく考えると、この16型の大編成を速めのテンポでピシッと曖昧なく鳴らし、淀みなく走らせていくのは、それだけで至難の技とも思われますし、それ以上にウィーン・フィルの鳴りっぷりが胸のすくほど良く、聴いていてしきりにウキウキさせられましたし、やはり何もしていないようで実はメータの睨みがしっかり張り巡らされた演奏ではなかったかと、聴き終えて感じました。いずれにしても、久々に爽快で気持の良いベートーヴェンを聴けて嬉しかったです。

爽快で気持の良いという点では、ある意味ベートーヴェン以上だったのがアンコールの2曲のポルカ。思えば当夜のウィーン・フィルと、その前々日に観たスカラ座とを合わせて、何だか盆と正月が一緒に来たような気持ちだったのですが、ここにおいて、オペラの最後で先祖の幽霊が登場して幕切れというスカラ座の方が「盆」、ニューイヤー・コンサートさながらにシュトラウスのポルカで締めくくったウィーン・フィルの方が「正月」というオチが、どうやら付いたようです。お後が宜しいようで、、、<(_ _)>

コメント

 
2009年のウィーンフィル日本公演はあまりよくなかったと思います。
貴方様が聴きに行った9/17サントリーホールでの公演を私も聴きに行きましたが酷い演奏でした。
貴方様は最近のウィーンフィルの実演しか聴いていないようですが、そのような方にはあの演奏でもよい演奏に聴こえるのでしょうね。
それは別に悪い事ではないと思いますが、長年ウィーンフィルの実演を東京やウィーンで聴いてきた私にとっては2009年の一連の日本公演は明らかに手抜き演奏が多いものでした。
日本公演に限らずルツェルン音楽祭などの公演でも評判がよくなかったようです。
ウィーンフィルの最近の日本公演は出稼ぎ的な手抜き演奏が多過ぎます。

貴方様のように心から音楽が好きな方にこそ、かつての本気で演奏したウィーンフィルを聴かせたいと思うのです。
ウィーンフィルの本当の素晴らしさというのは表面的な音響の美しさではなく、音楽の本質を深く掘り下げた内面の奥深さにあると思います。
最近のウィーンフィルがそんな演奏をするのを聴く事は残念ながら稀なことになってしまいました。


Wiener様、コメントありがとうございます。ウィーン・フィルの実演を、おそらく相当に聴き込まれていると思われる方の、忌憚のない御意見として興味深く拝読しました。

> 貴方様が聴きに行った9/17サントリーホールでの公演を
> 私も聴きに行きましたが酷い演奏でした。
> 貴方様は最近のウィーンフィルの実演しか聴いていない
> ようですが、そのような方にはあの演奏でもよい演奏に
> 聴こえるのでしょうね。

くだんの公演に関しては私も手放しで絶賛というのではなく、前半のバルトークに関しては「バルトーク的なアトモスフィアとはややかけ離れた雰囲気」という風に書きましたし、後半のベートーヴェンに関しては「良くも悪くも、絵に書いたようにオーソドックスな運用」という風に書いて、いずれも一定の留保をつけています。

また、言外に仄めかしてもいますように、特にベートーヴェンにおいては、ある種の手ぬるさを聴いていて感じないでもありませんでした。

ただ私は、そのあたりの雰囲気を、肩の力を抜いてリラックスして演奏していると、肯定的な方向に受け止めたのですがWiener様のように長年ウィーン・フィルの実演を聴き込まれてきた方にとっては、なるほど手抜き演奏として否定的に受け取られるべき演奏であったのかも知れません。

おそらくWiener様の眼には、私の感想は甚だ至らない内容と映ったものと思われますが、経験の差に拠るものとして御容赦ください。

> ウィーンフィルの本当の素晴らしさというのは表面的な
> 音響の美しさではなく、音楽の本質を深く掘り下げた
> 内面の奥深さにあると思います。

そうですね。おっしゃる通りだと思います。

今後とも宜しくお願いいたします。
1997年ハイティンクと来日したときの広島公演マーラー9番は本当に凄い演奏でした。第4楽章のチェロの喋るような音色が彼方に消えていく様は,10年以上たった今も忘れられません。

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