パッパーノ/パリ管によるヴェルディの歌劇「ドン・カルロ」全曲


ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」全曲
 パッパーノ/パリ管弦楽団
 EMIクラシックス 1996年ライヴ TOCE-9203-5 
TOCE-9203-5

ヴェルディの歌劇「ドン・カルロ」につき、先週ムーティ/スカラ座の全曲盤カラヤン/ベルリン・フィルの全曲盤を聴いたのに引き続き、今日はアントニオ・パッパーノ指揮パリ管弦楽団の演奏による全曲盤を聴いてみました。

これは96年のパリ・シャトレ座での公演のライヴ収録で、フランス語の5幕版という珍しい形式で録音されています。普通はミラノ・スカラ座初演時のイタリア語による「リコルディ4幕版」が用いられるところ、このパッパーノ盤はフランス初演時に近い形式で演奏されているようです。

この5幕版では、通常の4幕版でカットされている第1幕が聴けるのが大きな特徴で、そこではフォンテヌブローの森における、カルロとエリザベッタの邂逅のシーンが描かれるのですが、これがなかなかドラマティックに出来ていて、思わず惹き込まれました。

とりわけカルロがエリザベッタに正体を明かし、愛の二重唱を歌った後、祝砲とともにフランスとスペインの講和条約締結の報が告げられ、ここまで幸福感をさんざん煽った直後に、エリザベッタの婚約者が急遽カルロからフィリッポ2世に変更になったと知らされるのですが、この場面での音楽の、まさに「天国から地獄」的な雰囲気が圧巻で、つい30秒前まで「幸福が魂をとらえて離さない」と二人して歌っていたのが、「奈落が口を開いた」、「地獄に落ちた魂」、「いっそ墓に入りたい」という激烈な歌唱内容に切り替わるのには、聴いていてちょっと呆気に取られるくらいです。

このあと第2幕に移るのですが、ここからはリコルディ4幕版の第1幕以降とだいたい同じ内容になるようです。細部においては4幕版との違いがいくつか聴かれ、例えば、第2幕でカルロがサン・ジュスト修道院に登場する時に歌われる有名なロマンツァ「フォンテヌブロー、広大で淋しき森よ」は、5幕版だと第1幕のフォンテヌブローの場面で歌われるので、第2幕の方ではカットされていますし、逆に第4幕のラストでは、ロドリーゴの死をフィリッポ2世が嘆くアリアが追加されています。その追加されたアリアのメロディというのが、ヴェルディの「レクイエム」での、かのラクリモサの有名なメロディにそっくりなのでビックリしました。

全体的な印象としては、5幕版の方が当然ながらストーリーに厚みが出ますし、上記のように5幕版の第1幕が省略されるのが惜しいくらいのドラマティックな内容ですし、確かに4幕版よりも5幕版の方が秀逸なような気もします。

ただ、あくまでCDで自分のペースで聴くぶんには、5幕版の方がいいのかも知れないですが、これを実演で聴くとなると、さてどうだろうという気もします。5幕版を上演するとなると上演時間が4時間を超えることは必定と思われ、それこそワーグナー並みになってしまうからです。これでは演奏する方も大変でしょうし、聴く方としても、第5幕のあたりなどクタクタになってしまうのではないかと思います。

もともと長距離走的な書かれ方のワーグナーだと、4時間聴いてもさほど聴き疲れはしないのに対し、もともと短距離走的な書かれ方のヴェルディだと、4時間はさすがにキツいのではないか、どうもそんな気がします。

そういうわけで、5幕版はCDで聴くぶんにはいいのですが、実演で聴くには、やはり4幕版の方がいいかなというのが一応の結論です。

それはさておき、演奏の方ですが、パッパーノ/パリ管のアンサンブル展開は、その洗練された洒脱な味わいにおいて独特のものを感じました。弦といい管といい、総じて色合いの豊かにして艶やかな音色、響きのエレガンシー、あるいは聴き手の感傷にダイレクトに訴えかけるような音響美が素晴らしく、この「ドン・カルロ」というオペラが、これほど美しい景色に満ちているということを、このパッパーノ/パリ管の演奏を聴いて初めて教えられたような気がします。例えば、第4幕終盤のロドリーゴの死に際のアリアや、第5幕冒頭のエリザベッタの悲しみのアリア等に聴かれる、管弦楽の得も言われぬ美しさ。

もっとも、やや耳当たりの良さが勝ち過ぎ、ここぞという時の音響的な厳しさに欠けるような印象もあり、このオペラのシリアスな佇まいが霞みがちになる気配があるのが、気にはなりました。このオペラ初演時のグランド・オペラ的な雰囲気を味わうには最適なCDだと思うのですが、本格的なイタリア・オペラとして聴くには、正直ちょっと厳しい感じもします。

5人の主役級のキャストですが、ドン・カルロがロベルト・アラーニャ、フィリッポ2世がヨセ・ファン・ダム、エリザベッタがカリタ・マッティラ、ロドリーゴがトーマス・ハンプソン、エボリ公女がワルトラウト・マイヤーという、ビッグネームがズラッと並んだ布陣で、これは先週聴いたカラヤン盤にも劣らない豪華な顔ぶれです。

ただ、全体に舞台上の歌手の音録りがオケよりも少しオフ・マイク気味に、引っ込んだ感じになっていて、いまひとつ厚みが乗らない嫌いもあります。せっかくの豪華キャストなので、もっとオン・マイクで録られていればと、少しもったいない気もします。

もっともそれを差し引いても、かなりハイ・レベルな歌唱展開が披歴されていて十分に楽しめました。特にカルロ役のアラーニャは、母国語の強みもあり水を得た魚という趣きで、聴き惚れるばかりでした。若さを前面に押し出しつつも、ムーティ盤のパヴァロッティのように直情的なカルロとも一味違う、屈折したニュアンスを天性の美声にまぶして、陰影のあるキャラクタを巧妙に創造していく様には、テノール歌手として卓抜したものを感じました。

ロドリーゴのトーマス・ハンプソンは、さすがにカラヤン盤のカプッチッルリの域には及ばないとしても、ムーティ盤のコーニよりはずっと良く、フランス語との相性も上々で、知的にして細やかな感情の機微に富んだロドリーゴの名歌を聴かせてくれます。フィリッポ2世のヨセ・ファン・ダム、エリザベッタのマッティラもまずまずでしょう。エボリを歌うマイヤーは、歌唱様式が重々しいドイツ・オペラ風なのでヴェルディにはちょっと合わない気がしなくもないのですが、第4幕のアリア「呪わしき美貌が」などでは純粋に声の力が凄くて、客席から盛大な拍手を引き出しています。さすがに貫禄勝ちというところですね。

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