カラヤン/ベルリン・フィルによるストラヴィンスキーの「春の祭典」の72年ロンドン・ライヴ


ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」
&モーツァルト ディヴェルティメント第15番
 カラヤン/ベルリン・フィル
 テスタメント 1972年ライヴ JSBT8453
JSBT8453

これは先月リリースされたCDで、カラヤン/ベルリン・フィルのロンドン公演(1972年5月15日、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)がライヴ収録されています。演目はモーツァルトのディヴェルティメント第15番K.287と、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」です。

このうち「春の祭典」は、カラヤンの正規盤としては4つめのもので、既に2つのスタジオ録音盤(1964年、77年)と78年のライヴ録音盤が正規リリースされています。そしてこれら既出の3種のカラヤンのハルサイの中では、何といっても78年のスイス・ルツェルン音楽祭でのライヴが超絶的とも言うべき演奏内容として知られており、私としても、これはおそらくカラヤンの残した録音すべての中でも別格的な位置づけにある演奏のひとつと捉えています。

そして、今回リリースされたカラヤン4番目のハルサイは、70年代のライヴという点でその78年のルツェルン・ライヴのハルサイと共通します。このCDを購入した主たる理由はそこにあり、もしこれが78年のライヴ並みの演奏内容だとしたら、ちょっと聴き逃せないと考えました。

それで聴いてみると、ハルサイの冒頭あたりはフレージングに落ち着きがなく、アンサンブルもやや雑然とした感じがあり、全体におっかなびっくりという雰囲気なのですが、それでも次第にきっちり立て直してくるあたりはさすがにカラヤンで、(2:12)あたりの木管の高音域のパッセージなどには音色にキリッとした鋭さもあって、20世紀音楽としての鋭角的なムードが出ていたり、かなりいい感じです。

しかし(3:10)からの「春のきざし」冒頭の弦のスタカートのフォルテ進行はやや抑制がかっていて物足りなく、(4:33)からのティンパニもかなり抑えが効いていて、いずれも78年のルツェルン・ライヴに聴かれる凄味とは比較にならないほど穏健です。

「春のロンド」でフォルテッシモの展開に入った(2:53)あたりの金管強奏のおどろおどろしさなど、確かにカラヤンの演奏としてはかなり真に迫った雰囲気なのですが、打楽器の強打音が全体にモコモコした感じでパリッと響き切らなかったり、弦の刻みなどもシャープさに欠け、もっさりした感じだったり、その中から金管パートが時折スタンドプレイ的にドスの効いた咆哮を発するという按配で、聴いていて何かまとまりに欠けるような印象を否めませんでした。

全体を聴き終えてみると、このロンドン公演のハルサイは、通してアンサンブルの大きな乱れとか、明らかな吹き損ない等の、ミスらしいミスが特に無い点で、このライヴ録音がおそらく無編集であると仮定すると、さすがにベルリン・フィルという感じはするのですが、肝心の表出力という点では、78年のルツェルン・ライヴのハルサイと比較し、色々な意味で「大人しい」演奏であって、したがって物足りない印象も正直かなり残るものでした。

ただ、私がこのロンドン公演のハルサイを聴いて特に印象的と思ったのは、ベルリン・フィルの響きにおいてスタジオ盤よりもずっと「活きた」温度感があることです。例えば第2部の「選ばれし乙女への賛美」に入るあたりなど、カラヤンにしてはかなりホットというか、ワイルドというか、アンサンブル展開に熱いたぎりがあり、こういうのは彼のいつもの、あの取り澄ましたようなスタジオ録音ではちょっと聴けないような表情だと思われますし、おそらくこのあたりが、後のスタジオ再録音のハルサイを経由し作品を掌中に収め切った上で、最終的にあの自己の胸中を曝け出すかのような、壮絶なルツェルン・ライヴのハルサイに結実していったのではないかと、どうもそんな気がします。

併録のモーツァルトに関しては、当然ながら後半のハルサイとは比較にならないほど小規模な編成による、肩の力を抜いたアンサンブルの、気楽な雰囲気の演奏であり、内容的にもディヴェルティメントそのものであって、印象としてはムード音楽をその通りに演奏している、という以上のものを持ち得ませんでした。

以上、このカラヤンのロンドン公演のハルサイは、少なくとも78年のライヴ並みの演奏内容を期待して聴くと、かなり聴き劣りがすることは否めないのですが、むしろ私としては、カラヤンのスタジオ録音とは一味ちがった、ライヴ・モードならではの血の通った音楽の表情に聴いていて惹かれました。78年のライヴのような完全燃焼とまではいかなくとも、十分に傾聴に値する演奏だと思います。

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