ムーティ/ミラノ・スカラ座によるヴェルディの歌劇「ドン・カルロ」全曲


ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」全曲
 ムーティ/ミラノ・スカラ座管弦楽団
 EMIクラシックス 1992年ライヴ TOCE-8318-20 
TOCE-8318-20

来月ですが、ヴェルディのオペラを2つ、観に行こうと思っています。

ひとつは新国立劇場の新シーズン開幕公演の「オテロ」で、もうひとつはミラノ・スカラ座の来日公演の「ドン・カルロ」です。

このうち「ドン・カルロ」の方は、私がこれまでに聴いた頻度として実演・録音ともに「オテロ」よりずっと少なく、ちょうど3年前に新国立劇場で上演されたのを観たのですが、それ以来のご無沙汰です。

そこで来月、スカラ座の公演を聴きに行くまでに、予習がてらCDの全曲盤をいくつか聴いておきたいと思い、今日はまず、ムーティ/スカラ座のライヴ盤をひと通り聴いてみました。

この「ドン・カルロ」はヴェルディ後期の傑作のひとつと目されているものですが、上演には最低5人の主役級歌手を必要とするため、ヨーロッパの有名な劇場でも記念公演など特殊な機会でもなければ容易に上演に掛からないオペラとされています。

また、この作品は本来フランス風のグランド・オペラとして書かれ、パリ・オペラ座で初演されたのですが、この5幕によるフランス初演版は今日あまり上演されず、後年ヴェルディが改訂し1884年にミラノ・スカラ座で初演された「リコルディ4幕版」というのが今日一般に上演される版のようです。このムーティ/スカラ座の全曲盤もそのリコルディ4幕版に基づいていますし、来月のスカラ座来日公演でもやはりこの版が用いられます。

さて、今日ムーティ/スカラ座の「ドン・カルロ」を、シナリオの流れを思い出しながら、ひと通り聴いてみたのですが、聴き終えて、改めてこのオペラは聴きごたえのある傑作だなという印象を深めました。

シナリオはフリードリヒ・フォン・シラーの戯曲に基づく重厚なストーリーで、ヴェルディの多くのオペラの中でも傑出したもののひとつだと思います。よく主人公が5人いるなどと言われるように、個々のキャラクタに互角の存在感があるため、シナリオの綾が重層に折り重なっていて、気が抜ける場面がほとんどなく、ヴェルディ後期の熟達な音楽の書式とあいまって醸し出されるオペラとしての濃密な緊張感と壮大なスケール感には、改めて感服させられます。

それだけに残念な気がするのが、幕切れの展開で、そこではシラーの原作を曲げて、前国王の亡霊が突然現れカルロを墓に呼び込むという、マンガみたいなことをしていて、それまでせっかく迫真の人間ドラマが展開されていたのに、これでちょっと水を差され、余韻が少し削がれたような印象を受けます。何か、余計なことをしたなというのか、そんな気がするのは私だけでしょうか。

演奏ですが、ムーティ/スカラ座のオーケストラに関しては、イン・テンポ様式の無駄のない音楽の運びから過不足のない音楽情景が展開されていて、安心してオペラに身を浸すことのできるものでした。

そして、聴いていてスカラ座はやはり凄いなと思ったことが、幾つかあります。

ひとつにはオーケストラの奏でる音響的なニュアンスが、テンポの抑制ぶりからすると驚くほど多彩であることです。それも喜怒哀楽といった単純な言葉では表し切れない複妙な趣きが、場面場面で絶妙に押し出されてきて、それが少しも押し付けがましくなく、無言の説得力に満ちています。いまひとつは全体にオケと歌手との連携ぶりが万全であることで、歌手が華々しく登場する場面や、聴かせどころのアリアを披露する段では、必ずオーケストラが一歩下がった感じになり、必要以上に出しゃばらず、むしろ歌唱を大いに引き立ていて、オーケストラがメインで聴かせる段との変わり身の鮮やかさを際立たせていました。

いずれもおそらくスカラ座の伝統の力だと思うのですが、ムーティの統制力の賜物のような気もします。来月のスカラ座公演の「ドン・カルロ」では、ダニエレ・ガッティが指揮をとるのですが、アンサンブル運用に関しては、ぜひともこのディスクの水準で聴かせて欲しいです。

5人の主役級のキャストですが、ドン・カルロがルチアーノ・パヴァロッティ、フィリッポ2世がサムエル・レイミー、エリザベッタがダニエラ・デッシー、ロドリーゴがパオロ・コーニ、エボリ公女がルチアナ・ディンティーノという布陣です。この中では、ロドリーゴ役コーニに少し物足りなさがあるのですが、他の4人は充分過ぎるほどの名唱を聴かせています。

特に外題役パヴァロッティは持ち前の「黄金のラッパ」を高らかに鳴らし、カルロの直情的な性格を、実にナチュラルに(自然に歌っているだけなのにそのように聞こえる!)歌い表していて惹き込まれました。パヴァロッティの声質を考えると、ドン・カルロはまさに打ってつけな役柄のひとつですね。

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