ロシア・ナショナル・フィル来日公演(サントリーホール 6/12)の感想


ロシア・ナショナル・フィル来日公演(サントリーホール 6/12)の感想です。

オーケストラ編成は16型のフル編成、配置はステージ向かって左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンと並べた変則対向配置でした。

前半のチャイコフスキーの3曲ですが、いずれも演奏内容としてはいまひとつというのが率直なところです。最初の「ロメオとジュリエット」は、確かにアンサンブルの鳴り具合は良くて、その大音量の迫力には十分なものがありましたが、その割りにアンサンブルのフォーカスが全体に甘く、個々のフレージングに切れを感じにくく、響きがどうもボワンとした感じで緊張感がいまいち、という按配でした。続く「ロココ風の主題による変奏曲」と「アンダンテ・カンタービレ」においては、このオーケストラの特徴と喧伝されていた弦パートの艶やかな音彩ないし細やかな陰影の付け方に惹かれるものがあり、リプキンのチェロ独奏でのテクニシャンぶりも見事なものでしたが、いずれも作品自体の品の良いムード感をかなりストレートに出したような、甘口の音楽造りゆえに、聴いていて確かに心地良いものでしたが、同時にいささか深みに乏しいような印象も否めませんでした。

以上が前半の感想で、後半のショスタコーヴィチもこの調子だとちょっと困るなと、正直思っていたところ、後半に入ったそのショスタコ5番においては、前半からすると打って変ったようにアンサンブルに引き締った緊張感が全編に漲り、その豹変ぶりに驚かされました。

第1楽章冒頭からすこぶる表現力のある響きがアンサンブルから一貫して供給され、前半のチャイコフスキーでのフォーカスの甘さがウソのように、ピントがビシッと合ったソノリティといい、パワフルなフォルテッシモの荒びた迫力といい、いずれも前半での表面的な迫力とは段違いで、特にクライマックスでの殺気立ったような弦のフレージングと金管の最強奏で畳み掛けられる熾烈な大音響などは聴いていて空恐ろしいくらいでした。

第2楽章は聴いていてゾクゾクするほどにグロテスクな音響感が充溢し、木管(特にファゴット)が随所に発した音色のうす気味の悪さは強烈でしたが、これが第3楽章になると、木管が一転して淡く儚い音彩を奏で、それが弦のセンシティヴなフレージングと相まって、実に深々とした祈りの音楽が現出され、その第2楽章との表情の落差においては、聴いていてちょっと気が遠くなるくらいの対極性を感じさせるものでした。

終楽章は冒頭がかなり個性的で、最初4分音符=88のテンポで入り、11小節めで104まで上げるのですが、途中スコアに加速指示がある8小節めで敢えて加速せず、直前の10小節めになって一気にテンポアップ、というやり方を披露しました。このやり方だとスコアに型通りに従うよりも、ずっとドラマティックな効果が出ますが、僅か1小節で104まで上げなければならないため、アンサンブルが乱れるリスクも伴うところです。それをロシア・ナショナル・フィルは事も無げにこなしてみせ、そのアンサンブルの強力な一体感には聴いていて度肝を抜かれる思いでした。その冒頭のインパクトは圧巻という他なく、以降もアンサンブルの圧倒的な表出力が冴えわたり、その狂気すら孕んだような迫真の音響展開も含め、聴き終えて言い知れぬ感動を呼び起される演奏でした。

以上、本公演は前半はともかくも、後半のショスタコーヴィチに関しては強度のリアリティを孕み迫真を極めた聴き応え満点の演奏で、それは少なくとも、私がこれまで聴いた同曲の実演の中では屈指の水準と感じられるものでした。

コメント

 

コメント

 
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

Powered by FC2 Blog
Copyright © クラシックCD感想メモ All Rights Reserved.