ノット/ケルン放送響によるラッヘンマンの「ヌン」


ラッヘンマン 「ヌン」、「ノットルノ」
 ノット/ケルン放送交響楽団(ヌン)
 ツェンダー/クラングフォルム・ウィーン(ノットルノ)
 KAIROS 1999年(ヌン)、95年(ノットルノ) 12142KAI
12142KAI

これはヘルムート・ラッヘンマンの代表作「ヌン」の世界初録音盤です。この作品は1997年から99年にかけて作曲された、大編成オーケストラと独奏フルート、独奏トロンボーン及び男声合唱のための音楽です。

ここでの演奏はジョナサン・ノット指揮ケルン放送響、フルート独奏はギャビー・パ=ヴァン・リエ、トロンボーン独奏はミカエル・スウォボダがそれぞれ務めています。

作品中にはラッヘンマンが傾倒する西田幾多郎のテキストが声楽的に用いられていますが、それは例によって断片的なものにとどまり、例えば(17:55)あたりでは、男性コーラスがボソッと何かを語ろうとし、その度にピアノが強烈な和音でそれを遮る、というような特異な処理がされていて、かなり抜き差しならない音景が描き出されています。

さらには(18:10)あたりの特殊奏法が発する音響の異常な感触、クライマックスたる(25:05)あたりのゾッとするような絶叫など、全体にラッヘンマンの音楽特有の強烈感に満ち、このあたりの感覚を言葉にするのはかなり難しいですが、皮相な喩えで言うなら、まるで深淵にひとり佇み、そこで何か得体の知れない存在に絶えず脅かされるような、極度の緊張感に満ちた音楽、そんな印象を受けます。

ラッヘンマンの代表作というとよく「マッチ売りの少女」が挙げられますが、オペラ創作はラッヘンマンの本流とは言い難いこともあり、ちょっと違和感を受けます。例えばベートーヴェンの代表作として「フィデリオ」を挙げるのに近い感じでしょうか。

やはりラッヘンマンの本流は抽象的な絶対音楽の分野の創作にこそあると思われ、その中から代表作と目される作品を挙げるなら、現状ではさしずめ、この「ヌン」あたりかという気がします。

ところで、この作品にはオーストリアKAIROSレーベルの前記ノット盤に加えて、最近もうひとつの録音が、ドイツの現代音楽専門アンサンブル「アンサンブル・モデルン」の自主制作レーベルよりリリースされました。以下のシュテンツ盤です。

EMCD004
ラッヘンマン 「ヌン」
 シュテンツ/アンサンブル・モデルン・オーケストラ
 ENSENBLE-MODERN 2005年ライヴ EMCD004

こちらはマルクス・シュテンツの指揮によるライヴ盤で、フルート独奏ディートマー・ヴィースナー、トロンボーン独奏ウーヴェ・ディエルクセンに加えて、スコラ・ハイデルベルクによる混成合唱が用いられています。

現代音楽の専門部隊ともいうべきアンサンブル・モデルンの演奏だけあり、特殊奏法における切れ味はさすがで、(23:23)あたりの息音の生々しさなどにはノット盤を上回る印象の強さがありますし、(32:30)から音楽が異様にヒートアップするあたりなど、全体にライヴ的な雰囲気も豊かです。ただ、録音が全体にオフマイク気味で、その距離感ゆえに(27:15)あたりのクライマックスの迫力などは、ノット盤のそれよりもやや落ちる感じがします。

スタジオ録音でカッチリ固めた、完成度のノット盤に対し、ライヴの雰囲気が生々しい、臨場感のシュテンツ盤、いずれも本作品の醍醐味が端的に感じられる演奏内容です。もっとも、特殊奏法の性質上、やはり視覚的インパクトを伴う実演には如かずという印象も否めないところで、この種の音楽をCDで聴くことの難しさや限界に関しても、それなりに意識させられるように思います。

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