ラッヘンマンのオーケストラ作品展「協奏二題」(東京オペラシティ 5/28)の感想


昨日のコンサート、ラッヘンマンのオーケストラ作品展「協奏二題」の感想です。

前半の「アカント」(オーケストラを伴う独奏クラリネットのための音楽)は1970年代作曲の作品で、オーケストラ及びクラリネット独奏とテープ音との対話形式で進められるものでした。ステージ両脇のスピーカーから流れるテープ音の素材として用いられたのはモーツァルトのクラリネット協奏曲ですが、その有名なメロディを含め、それが原曲のまま流されることはほとんどなく、各旋律がブツ切りに破壊された断片を中心にテープ音が構成されていました。そのテープ音を「傍らに(=アカント)」、オーケストラとクラリネット独奏が異彩を極めたような音響展開を繰り広げる、という感じの曲でした。

冒頭からチェロ後方に配置されたクラリネット部隊がいきなりクラリネットの吹口を手のひらで叩きだし、その軽打音をもって音楽が始まり、あとはもう特殊奏法のオンパレード。息音、弓の背側で弦を擦る音、弦を指で引っ掻く音(もちろん、ピチカートとは全然違います)、、、

このあたりは、さすがにラッヘンマンの音楽ならでは、ですが、そういう風に感じるのは今現在だからで、仮にこれを作曲当時の70年代に耳にしたとしたら、どれほどの衝撃を受けたか、それこそ19世紀初頭の聴衆がベートーヴェンの「英雄」交響曲を初めて耳にした時に近いようなものではなかったか、など、そんなようなことを思い浮かべつつ聴き入り、その常軌を逸した、ラッヘンマンの言うところの「音響のジャングル」に圧倒される思いでした。

後半の「ハルモニカ」(独奏テューバを伴う大オーケストラのための音楽)は1980年代初頭の作品で、ラッヘンマンが言うにはある種の「ダンス音楽」であり、テューバというダンスに不向きな楽器に敢えてダンスをさせた冒険作、とのことでした。前半の「アカント」と同様、音素材としてベルクのヴァイオリン協奏曲の冒頭旋律、バッハの無伴奏チェロ第1番プレリュードの冒頭旋律などを用いたものでしたが、いずれも原型をほとんど留めないほどに極度に変形(というより破壊)された上で用いられていました。

実際、演奏前のラッヘンマンのプレトークで、まずバッハ無伴奏チェロのメロディを実際に弾かせ、「これが私の曲ではこのように変形されて使われます」と言って、オーケストラに当該場面を演奏させるといった解説が為されましたが、それを聴いても、一体どう変形したのが、さっぱり分からないほどでした。

この「ハルモニカ」の全体の雰囲気は、前半の「アカント」での弱音をメインとする展開とは逆に、冒頭から強音でガンガン押しまくるアグレッシブかつ攻撃的な楽想が支配的で、なかんずくオーケストラがアルペジオ風の幅広い音階を縦横無尽に駆け巡る様には激烈なものがあり、その意味において「アカント」をベートーヴェンの「英雄」交響曲とするなら「ハルモニカ」は「運命」交響曲、そんなイメージが聴いていて何となく連想されました。

特殊奏法の駆使という点でも「アカント」に負けず劣らずで、たしか開始10分ほど過ぎたころ、テューバ独奏の橋本晋哉が譜面台からおもむろにエンピツを一本手に取り、何をするのかと思いきや、それでテューバの管側面を叩き出すという異様な光景が繰り広げられました。打楽器と化したテューバ。

もちろんそれはラッヘンマンの提唱する「ミュージック・コンクレート(具体音楽)」の概念に基づく、「楽器の身体性」の実践なのですが、こういうのは、聴覚的なインパクト以上に、視覚的なインパクトというのが絶大で、ありきたりの常識というか価値観が大きく揺さぶられる快感というか愉悦に酔わされる、そんな感じでした。その独特の雰囲気は、少なくともCDなどではほとんど感得不能ではないかと思われるものです。

振り返るに、本公演における日本初演の2作品はいずれもすこぶる本格的な現代音楽作品に特有の、強烈な耳当たりの悪さを伴う、そしてそれ故に聴衆への媚びやハッタリが完全に除外された真実の音楽に他ならないものと感じましたが、それ以上に、往年のラッヘンマンの剥き出しの前衛精神が満面に炸裂したような強烈な音響的刺激感が素晴らしく、その点においては少なくともラッヘンマンの近年の作品である、5年前サントリーホールにおいて同じオーケストラで聴いた「書」よりも印象的に上回る感じがしました。

以上が演奏そのものに関しての感想で、これほどの現実離れした音楽作品を一点の綻びもなく現実離れした音響に具現せしめた飯森範親の手腕、ならびに2000年の「マッチ売りの少女」日本初演からラッヘンマン作品に深い関わりを有する東京交響楽団の作品への深い理解と確かなシンパシー、いずれも驚嘆に値するレベルで見事というほかありませんでした。

ただ、プレトークに関しては、もう少し短くても、さらに言うなら、特に無くても、、という気もしました。実際、2時間の公演時間において、「アカント」が25分で、「ハルモニカ」が30分と、正味1時間未満でしたし、質的にはこれ以上ないほど素晴らしいものでしたが、量的には若干物足りなさも残るものでした。

ちなみに2003年のサントリーホールの公演は以下のような演目で、かなり盛り沢山な内容でした。

2003-12
(↑文字が見にくい場合はイメージをダブルクリックして下さい)

今回の公演でのラッヘンマンのプレトークは、確かに傾聴に値するものでしたし、人によっては作品の理解が深まったこともあるかも知れないですが、私の印象を率直に言うなら、例えば「ハルモニカ」の素材の解説に関して上で少し書いたように、各作品を聴く上でそれほどに有用とは思えませんでした。

このあたりの感じ方は人それぞれと思いますが、私の場合、現代作品に関しては必要最小限の知識だけ押さえて、あとは音響を聞こえるままに聴いて自由に想像を膨らませるという聴き方をとっているので、逆にあれこれ解説されると想像の楽しみが狭められてしまい、かえって窮屈な気がしてしまいます。理想的には、プレトークを外して、代わりにもう一曲くらい、2~30分程度のラッヘンマンのオーケストラ作品を聴ければ完璧でした。

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