ペライアによるベートーヴェンの中期ピアノ・ソナタ作品集


ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第12番、第9番、第10番、第15番「田園」
 ペライア(pf)
 ソニー・クラシカル 2008年 88697326462
88697326462
指の故障からカムバックしたマレイ・ペライアによる久々のベートーヴェン・アルバムです。ベートーヴェンのソナタ作品のまとまったアルバムとしては、1990年と94年に録音されたピアノ・ソナタ第1番~第3番以来とのことです。

ちなみにそのペライアによるソナタ第1番~第3番の録音(SRCR9806)をかつて聴いたときには、初期作品でこその快演、という印象を受け、仮に後期の大作でもこのスタイルだと、さすがにちょっと苦しいのでは、というような感想を抱きました。

それが今回の新譜ではベートーヴェンの中期のソナタ、それも比較的地味な作品を取り上げてのシブい配曲で、そこでペライアが披露するピアニズムが前回のアルバムと同様か、あるいはガラリと変えてくるか、そのあたりに興味をそそられて聴いてみました。

まず最初の第12番ソナタですが、冒頭からペライアのタッチはいつもながら美彩で、感覚的な愉悦味に満ちています。弱音はもとより強音においても水晶のような透明感であり、およそ響きが曇るという感じがなく、各打音の質感も繊細なもので、小気味良いスピード感も、その独特の美音の儚さを支え、全編にペライア一流のファンタジーが充溢する演奏です。

続く9番と10番の2曲のソナタでも印象的には同様ですが、この2曲のソナタに関しては、ベートーヴェンというよりまるでモーツァルトのソナタを聴くような天真爛漫とした佇まい、晴朗にして俗の無いニュアンスが素晴らしく、ベートーヴェンでこういう演奏が可能であるということに驚きすら感じるほどです。ある種の、突き抜けた美しさがここにはあります。この2曲の演奏は、ぺライアの卓抜した音楽センスが最良の形で発揮された超名演だと思いました。

最後の第15番「田園」は、作品との相性のためか、9番・10番の演奏ほどには突き抜けた感じは受けないですが、やはりぺライアならではの美演で、冒頭からもったいぶらないスマートなテンポで軽妙に始められ、全楽章とも歯切れの良いフレージングをベースに展開されるスピーディなタッチと粒立ちの良い音色に惹きつけられます。概ね個々のタッチの力感を抑え目としながらデリケートに弾かれたベートーヴェンで、聴いていて心和むような美演が披露されています。

以上、このペライアのベートーヴェンの新譜は、ベートーヴェンを聴くというよりペライアを聴くという側面の強い個性的なアルバムで、ことに第9・第10ソナタに聴かれる突き抜けた美しさにはひとかたならぬ感銘を受けました。

ただ、最初に書いたように、仮に後期の大作でもこのスタイルだと、さすがにちょっと苦しいのでは、というような印象は今回の新譜においてもやはり同じでした。今後ソナタ全集の録音に発展するかどうかは分らないですが、少なくとも初期と中期の作品の演奏には非常に期待がもてると思いますし、そのあたりを中心に今後もソナタ録音のリリースを継続して欲しいように思いました。

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