バンベルク交響楽団の来日公演(11/6 サントリーホール)の感想


2012-11-06b

バンベルク交響楽団の来日公演をサントリーホールで。指揮は現在このオケの名誉指揮者を務めているヘルベルト・ブロムシュテット。

前半の演目はピョートル・アンデルシェフスキのソロによるモーツァルトのピアノ協奏曲第17番だったが、これは久々に耳にした天才肌のピアニストの演奏だった。

全編を通して軽妙洒脱なタッチの運びからモーツァルトの天衣無縫なメロディの魅力を余すところなく浮き彫りにしたような演奏というべきか。ことに弱音領域における繊細を極めたタッチの統制力が圧巻であり、その異様なほどに怜悧な美しさを帯びたピアニッシモの訴求力は尋常一様なものではなかったし、音楽が不意に短調に陰る際に聴かれた音色の肌寒いほどのコントラストにも聴いていて強く魅了させられた。

このモーツァルトの音楽に特有なメルヘンティズムとペシミズムとが表裏一体となったような楽想に、これほど深々とした視界を示してくれた演奏というのは今まで聴いたことがないと思えるほどだった。アンデルシェフスキは正直これまでノーマークだったが、今後は注目してみたいと思う。

後半はブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」。ブロムシュテットのブルックナーといえば最近CDの方で継続的にリリースされているゲヴァントハウス管とのライヴ・チクルスをいつも楽しみに聴いているので今回のバンベルク響とのブルックナーは聴くのが楽しみだった。

当夜ロビーで入手したプログラムに書かれていたところによると、かつてブロムシュテットが13歳か14歳の頃にスウェーデンのエーテボリのコンサートホールで初めて耳にしたブルックナーの交響曲が第4番「ロマンティック」であり、それがきっかけで以後ブルックナーの音楽にのめり込んでいったそうで実際ブロムシュテットはブルックナーの4番に関しては今年リリースされたゲヴァントハウス管との録音を含めて計3回ものレコーディングを果たしている。

そのブロムシュテット/バンベルク響のブルックナーは期待に違わぬ圧倒的な高みを示した、文字通り感無量の演奏内容だった。的確な作品把握から音楽の姿を丁寧に描き出すブロムシュテットのアンサンブル運用はいつもながら堂に入ったものだったし、オケの鳴りも充実を極め、その深いコクを湛えた味の濃い響きはここぞという時に軒並み深遠なパースペクティヴを湛えた神々しいまでのハーモニーとして鳴り響いた。ホルンのソロの見事な鳴りっぷりなど、聴いていて随所にバンベルク響のアンサンブルとしての驚異的なポテンシャルが顕著に伺われ、そこには歴史的に何人もの伝説的なブルックナー指揮者の薫陶を受けたオケとしての強固なアイデンティティを垣間見るような気がしたが、そのポテンシャルを仮借なく引き出しつつ、盤石の音楽設計をもって比類無いほどの立体感を帯びたブルックナーの広大無辺な世界を導出せしめたブロムシュテットの手腕にも、今更ながらに驚嘆の念を禁じえなかった。

先月のティーレマン/ドレスデンのブルックナーも良かったけれど、少なくとも音楽から受ける精神的緊張感という観点においてはブロムシュテットやスクロヴァチェフスキのブルックナーは別次元という印象を受ける。欲を言えば切りがないが、出来ればブロムシュテット/ゲヴァントハウスのブルックナーも実演で聴いてみたいと改めて思った。

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以下の部分は余談で、本公演の感想からはかなり脱線するので興味が無い方は読み飛ばしていただきたい。

今回のブロムシュテット/バンベルク響の来日公演の演目は前述のとおりブルックナー4番だったが、使用スコアはノヴァーク版だった。また今年リリースされたブロムシュテット/ゲヴァントハウスのブルックナー4番のSACDでも同じくノヴァーク版が使用されていた。

しかしブロムシュテットはブル4の録音において一貫してノヴァーク版を用いていたわけではなく、以前のサンフランシスコ交響楽団との録音では以下のようにハース版が使用されていた。

POCL1530
ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」
 ブロムシュテット/サンフランシスコ交響楽団
 デッカ 1993年 POCL1530

ただし、これは厳密には「ハース版と1886年ニューヨーク版との融合ヴァージョン」と記載されていた。1886年ニューヨーク版というのは実質的にはノヴァーク版のことで、要するにハース版を基本として部分的にノヴァーク版の指示を取り入れたのがブロムシュテット/サンフランシスコ響の録音における使用スコアであり、このような折衷様式は録音実演を問わず指揮者の裁量によりしばしばブルックナー演奏で用いられることがある。

ここで話題が唐突に先月のティーレマン/ドレスデン・シュターツカペレの来日公演に飛ぶのだが、その公演で披歴されたブルックナーの7番、実はロビーで入手したプログラムにはハース版と明記されていたにも関わらず、第2楽章の終盤の山場ではハース版に無いはずのシンバルが盛大に打ち鳴らされるという不整合が起きていた。

それだからか、ハース版というのが誤記で実はノヴァーク版の間違いだったのではないかといった声を当夜ホールで耳にした。まず終演後に席を立つ時に斜め後ろの方で誰かが隣人に「今のノヴァークだよねぇ。思いっきりシンバル鳴ってたし。このハースって間違いじゃん」と話しているのを聞いたし、ちょうどホールの外に出た時にも再び同じような会話を誰かが話しているのが聞こえた。

しかし個人的には、あのプログラムのハース版という記載は間違いとは言い切れないのではないかと思われる。なぜなら前述のブロムシュテット/サンフランシスコ響の録音のようにハース版を基本として随時ノヴァーク版の指示を取り入れるというやり方もあるわけだし、もうひとつ引っ掛かる点として、最近リリースされたティーレマン/ドレスデンのブルックナー交響曲第8番のCDがハース版で演奏されているという事実も大きいからだ。この短期間に8番はハース版で、7番はノヴァーク版でというのもちくはぐだし、更に言うなら、これは以前ブログでも詳しく書いたが、このブル8の録音でティーレマンは明らかにスコアから外れた独自の強弱法を取り入れていた。それなら7番においてもハース版を基本としつつ第2楽章の終盤の山場でシンバルを鳴らすという独自のやり方を取る可能性も十分に考えられるように思えるからだ。

いずれにせよ、当夜ホールで耳にしたように「このブル7は第2楽章でシンバルが鳴ったからノヴァーク版」と短絡的に決め付けるのは少々危険なような気がする。専門家ならいざしらず我々のような素人が部分的な特徴にだけ着目して軽々に判断するのは止めておいた方が無難かもしれない。

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