マゼール/N響の演奏会(10/29 NHKホール)の感想


2012-10-29b

最初はベートーヴェンのレオノーレ第3番だったが正直あまり感銘を受けなかった。速めのテンポでスイスイ進めながらアンサンブルを無理なく鳴らし、程々に盛り上げるという風の、そつのない演奏。続いてグリーグのピアノ協奏曲。ピアニストはアリス=紗良・オット。第1楽章のカデンツァには惹き込まれたものの、全体的には表出力がいまひとつ不足気味。このピアニストの実演は今年6月のフランクフルト放送響の来日公演でも聴いたが、あのときのリストでのピアニズム自体の表出力には目覚ましいものがあったが、今回のグリーグは少し生ぬるく感じられてしまった。

後半はチャイコフスキーの交響曲第4番。この曲はマゼールのお気に入りのようで、レコードデビューして間もない1960年ごろにベルリン・フィルとウィーン・フィルを指揮して立て続けに録音しているし、また開演前のプレトークで小耳に挟んだ話によると、マゼールが初めて日本のオケに客演(東京交響楽団)した際に演目に選んだのも、このチャイコの4番だったのだとか。

当夜のチャイコフスキーは弦の編成が一風変わっていて、16-16-14-12-10というバスを厚くした変則16型だった。チャイコの4番の実演といえば最近聴いたばかりのロジェストヴェンスキー/読売日響の演奏が記憶に新しいが、面白いことに、そこでは今回のマゼールとは真逆に16-14-12-8-7というバスを薄くした変則16型だった。

好対照なのは編成のみならず演奏内容も然りで、マゼールはロジェストヴェンスキーのようにテンポを楽章ごとに大胆に切り替えたりとかクライマックスで大胆なテヌートを仕掛けて盛り上げるということはせず、全体的に速めのテンポを維持したスマートな運びからアンサンブルを丁寧に鳴らし、音量にしてもロジェストヴェンスキーよりは抑制を効かせ、そのぶんアンサンブル細部まで神経を行き届かせ、N響のオーケストラから絢爛たる響きを引き出すことに成功していた。

特に目覚ましかったのがアンサンブル各パートの色彩のメリハリ感であり、前述のようにバスを厚くしている割には重低音を殊更に強く押し出すという風な演奏ではなくて、むしろ高音部と低音部との音の連なりを色彩的に際立たせたりとか、あるいはトッティの際のアンサンブルの壮大な響きのパノラマ感を絶妙に浮き上がらせたり、こういったことのためにバスの厚さが活かされていたように思われた。

いずれにしてもロジェストヴェンスキーとはまた違った方向で手練手管を尽くしたアプローチが披歴され、少なくともチャイコの4番の実演でこれほど色彩感の豊かな演奏というのは聴いたことがないと感じたし、あらためてマゼールのアンサンブル・コントロールの練達ぶりに聴いていて感服させられた。

アンコールのグリンカ「ルスランとリュドミラ」序曲が始まったときは終演予定の21時を大きく過ぎていたが、82歳のマゼールは最後までスタミナ十分。惚れぼれするほど痛快なオーケストラ・ドライヴだった。

コメント

 

コメント

 
管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

Powered by FC2 Blog
Copyright © クラシックCD感想メモ All Rights Reserved.