フランクフルト放送交響楽団の来日公演(6/6 サントリーホール)の感想


2012-6-6b

①リスト ピアノ協奏曲第1番

ピアニストはアリス=紗良・オット。公演プログラムに掲載のインタヴュー記事にはリストの音楽へのひとかたならぬ思い入れが書かれていたが、当夜の演奏も立派なものだった。冴え渡るテクニックを背景に繰り出されるピアニズムの華麗を極めた表現力たるや聴いていて呆気にとられるほどのものだったし、鮮やかなパッセージワークから展開される個々のフレーズの妖艶なまでの美しさも特筆的だった。

敢えて難を挙げるならピアニズムの物理的というか重量的な意味での迫力だろうか。正直リストの1番というと個人的には最近CDで聴いたマツーエフの録音のように個々の打鍵にマッシブな重みを存分に効かせながら堅牢に構築された行き方の演奏が好きなので、当夜のアリス=紗良・オットの披歴したリストは若干ゾーンが外れていたが、こういうスタイルを好む聴き手にとってはこれ以上ないと言えるほどの演奏ではなかったかと思う。

②マーラー 交響曲第5番

法外なまでの純音楽的な醍醐味に満ちたマーラーだった。パーヴォ・ヤルヴィの指揮のもとに披歴されたフランクフルト放送響のアンサンブル展開は全編に渡って精緻を極め、恣意的なテンポ運用を抑制した直線型の造型と頑強な重低音(通常配置16型だったがチェロ11人コンバス9人と若干バスに厚みを持たせていた)をベースに組み上げられた音楽のフォルムは揺るぎなく、細部に至る完成度の高さ、音響的な情報量、いずれも圧巻の一言だった。

そして聴いていて思い出されたのが同じパーヴォ・ヤルヴィの指揮で昨年の秋に聴いたパリ管の来日公演でのストラヴィンスキー。この時も造型的にはオーソドックスな表現ながら音響的には非凡なものを聴き手に感知させるという行き方だったが、今回のマーラーでもオケは違えど、およそ奇をてらわずにオーケストラの非凡なパフォーマンスを磨き抜くことで作品の持つ途方もない奥行きをダイレクトに聴き手に意識させるという方針において確かな共通項が感じられた。

マーラーの5番にはあらゆる人間感情が錯綜して放り込まれているとまで言われる複雑で難解な表情の作品だが、当夜の演奏では何よりドイツ音楽然とした音楽の骨格が大事にされていたので、そういった複層的に絡み合うエモーショナルな色彩が理知的に練られて響き、それにより狂気や絶望、喜悦や享楽といった様々な情念を突き抜けたところにある純粋な音の快楽が透けて見えてくる。知情意が高いレベルで融合しているというべきだろうか。マーラーの音楽は情一辺倒では生きないが理一辺倒でも生きない。その危ういバランスだけが持ち得る音楽の稀有の緊張感を堪能したコンサートだった。

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