スタニスラフ・ブーニンのピアノ・リサイタル(サントリーホール 11/12)の感想


スタニスラフ・ブーニンのピアノ・リサイタル(サントリーホール 11/12)の感想です。

2011-11-12c

リサイタル前半はJ.S.バッハの作品群が続けて演奏されましたが、聴いていて正直どうしたんだろうと思うくらいブーニンにしては平凡な演奏でした。というのも、ステージ上のブーニンが明らかに体調が悪そうな雰囲気を醸し出していたからで、まず最初の「主よ人の望みの喜びよ」(マイラヘス編曲)を弾いている時に、その終わり近くで大きくクシャミをしたのを皮切りに、以降、曲の合間ごとにハンカチを鼻にあてがって調子悪そうな表情を示したりと、もしか風邪でもひいているのかなと観ていて心配になってしまうほどでした。そのあたりの影響が演奏の節々にも垣間見られてしまい、全体にフレージング構成が平板に流れタッチの弾力にも冴えがさほどになく、聴いていて不完全燃焼な気配がありありという印象を拭えませんでした。

後半の最初はドビュシーの版画(「パゴダ」「グラナダの夕」「雨の庭」)でしたが、この曲はブーニンが1985年に弱冠19歳でショパンコンクールに優勝した同年にグラモフォンに録音を果たしたほどのブーニンにとって思い入れのある作品だけに、どんな演奏かと期待して耳を傾けましたが、結果的には前半の不調を引きずるような形になり、これら難曲の3曲ともにミスタッチなく弾き切った点は見事としても表現において突き抜けたものに乏しく、並のピアニストであれば申し分のない演奏であってもブーニンともなればやはり期待値も大きく、聴き終えたときには残念感ばかりが残りました。

それがショパンのマズルカになるとブーニン本来の精彩に富んだピアニズムの冴えが徐々に発揮され出し、自在なテンポ感とリズムの目覚ましい弾力感、天衣無縫ともいうべきフレージングの閃き、いずれも作品に最大限の敬意を払いつつ彼ならでのピアニズムの持ち味も活かされた、まさにショパンコンクール覇者の貫録十分な演奏内容でしたし、次のエチュード「革命」においては音楽のシリアスな表情を正面から見据えた重厚なピアノの鳴りっぷりが素晴らしく、最後の幻想ポロネーズにおいては音楽の推移とともに微妙に揺れ動く細やかなニュアンスが絶妙な色彩感をもって描き出され、まろやかに洗練された美しい音色の醸し出すえも言われぬファンタジーの発露といい、みずみずしいリリシズムを湛えた高貴なロマンティズムの表現力といい、まさにブーニンならではの無二の演奏というに相応しく、この幻想ポロネーズがショパン作品の中でも随一の深みを持つ作品であるといわれる所以をあらためて実感させられるほどに感銘深い演奏内容でしたし、そのコーダで鳴り切った名器ファツィオリの雄渾な響きは聴いていて鳥肌が立つほど素晴らしいものでした。

以上、当夜のリサイタルではバッハとドビュッシーに関してはブーニンにしては正直いまひとつ精彩不足の演奏と感じられてしまい、それは残念でしたがショパン以降においては現在45歳にあるブーニン円熟のピアニズムの醍醐味を満喫することができ大満足でした。

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