マーロウ/ケンブリッジ・トリニティ・カレッジ合唱団によるパーセルの王室礼拝堂のためのアンセム


パーセル 王室礼拝堂のためのアンセム
 マーロウ/ケンブリッジ・トリニティ・カレッジ合唱団
 コニファー 1987年 CDCF152
CDCF152

日本という国は、2011年の「3・11」、その以前と以後とで分けて考えられなければならなくなった、という見解を最近よく目にします。あらためて、あの大震災がこの国にもたらした影響には計り知れないものがあるのだなということを思い知らされます。

最近、リチャード・マーロウ指揮ケンブリッジ・トリニティ・カレッジ合唱団によるパーセルの王室礼拝堂のためのアンセムのCDを、しばしば耳にしています。以前は何ということもなしに聴いていたCDだったのに、あの大震災を経た今の時点で聴くと、自分でも意外なほどグッとくる音楽として感じられてしまうからです。

イギリス音楽史上最大の作曲家ともいわれるパーセルは、周知のように教会音楽の分野で卓抜した手腕を発揮し、とくにチューダー王朝のタリス、バード、ギボンズといった作曲家の伝統を研究し、独自の教会音楽の技法を練り上げ、後世に残る珠玉の声楽曲を創作するに至りましたが、このアンセム集においてもパーセルの個性的な創造力はいかんなく発揮されており、当時の対位法音楽の伝統に新しいバロック様式の技法を取り入れて書かれた、その壮麗な作品の数々は後のヘンデルの音楽にも大きな影響を及ぼしたとさえ言われています。

ここで注目したいのは、このCDに収録されている音楽が、おもに17世紀後半期にイングランド国教会のために書かれた王室礼拝用のアンセムであるということです。イングランド国教会というのは周知のように、イングランドという国の統治者が国教会の首長を兼任している点に大きな特徴があります。

これらアンセムの歌詞に目を通すと、すべての曲が神に対する畏敬の念に満ち溢れていることが否応なく分かります。人間という存在がいかに脆弱で、神の前では無力に等しいものであるか、だからこそ神よ我らを守りたまえ、というような大意の歌詞ばかりです。

本来、イングランドという国の統治者といえば絶大な権力を掌中に収めているはずの人間ですが、彼らの列席する当時の王室礼拝堂では、こういったアンセムが詠唱されていた、という事実には、少なくとも私のようなキリスト教文化とは無縁の人間にとっても興味をひかれます。

今回の大震災は言うまでもなく天災ですが、それに端を発して起こった原発事故の災厄は、明らかに人災的要素が強い。為政者に神を敬う気持ちとまでは言わないにせよ、自然や放射能といった、人間の力では完全に制御し切れない事象に対する、為政者の畏敬の念が大きく欠如していたことは疑いがないように思えます。だから、これほどの甚大な被害に発展し、事故から4か月にもなろうとしている今も収束の兆しが一向に見えないという悲惨な事態にまでなっている、、

As it was in the beginning, is now and ever shall be, world without end.

複数のアンセムで使われている、このフレーズ、もとは聖書の詩篇から取られたものだそうですが、これはズシリと重みを帯びたフレーズだと思いました。少なくとも「3・11」以前よりも格段に、、

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