カラヤン/ベルリン・フィルによるヴェルディの歌劇「ドン・カルロ」全曲
ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」全曲
カラヤン/ベルリン・フィル
EMIクラシックス 1978年 TOCE-6437-39

ヴェルディのオペラ「ドン・カルロ」につき、昨日のムーティ/スカラ座のライヴ盤に続いて、今日はカラヤン/ベルリン・フィルの全曲盤を聴いてみました。こちらもリコルディ4幕版に基づく録音です。
5人の主役級のキャストは、ドン・カルロがホセ・カレーラス、フィリッポ2世がニコライ・ギャウロフ、エリザベッタがミレルラ・フレーニ、ロドリーゴがピエロ・カプッチッルリ、エボリ公女がアグネス・バルツァという、壮観なまでに豪華な布陣ですね。さらに宗教裁判長はルジェーロ・ライモンディですし、テバルドにエディタ・グルベローヴァ、修道士にヨセ・ファン・ダム、天の声にバーバラ・ヘンドリックスと、端役にまで贅を尽くした超豪華キャスティングです。さすがにカラヤン・プロダクションというところでしょうか。
しかしながら、ひと通り聴いた印象としては、皮肉なことに上記の豪華な歌唱陣の歌唱が十全に活かされているとは、必ずしも言えないように思います。
というのも、このカラヤンの全曲盤の最大の聴きものは、間違いなく「ベルリン・フィル」だと思われるからです。とにかくオーケストラの鳴りっぷりが尋常でなく、オケが中心に聴かせる段であろうと、なかろうと、金管や高弦を中心にアンサンブルを容赦なくガンガン響かせ、ティンパニなどもカラヤンにしては珍しいくらいにアグレッシブに鳴らされ、こと管弦楽的な音響的醍醐味を堪能するという観点では、このカラヤン盤の右に出るものは、おそらく無いのではないかというくらいの勢いです。
それはいいのですが、ここで大きく問題となるのは、総じてオーケストラに威力があり過ぎて、歌手を中心に聴かせる下りにおいてさえ、自分たちが主役とばかりにオーケストラが過分に出しゃばり過ぎる局面が頻繁に聴かれる点でしょう。例えば、第1幕でカルロが初めて登場し、「Io I'ho perduta!」と第一声を張り上げる場面など、これに被るオケのトッティが強すぎてカレーラスの歌声が霞んでしまっています。ここなど、昨日聴いたムーティ/スカラ座の全曲盤での同じシーンと聴き比べてみると、オケと歌手のバランスが全然違っていることに驚かされるくらいです。
昨日聴いたムーティ/スカラ盤では、全体的にオケと歌手との連携ぶりが万全であることが素晴らしく思われ、その感想の中でも、「歌手が華々しく登場する場面や、聴かせどころのアリアを披露する段では、必ずオーケストラが一歩下がった感じになり、必要以上に出しゃばらず、むしろ歌唱を大いに引き立ていて、オーケストラがメインで聴かせる段との変わり身の鮮やかさを際立たせています」と書いたのですが、このカラヤンの「ドン・カルロ」では逆に、そのあたりが甚だ遜色するというのが率直な感想です。少なくともムーティ/スカラ盤を聴いた後だと、ここでのカラヤンはオケと歌手との連携という観念を、それほど重視していないのではないかという疑問をかなり感じます。
以上のような理由で、せっかくの豪華キャストなのに、その歌唱の醍醐味がフルに伝達されないところが聴いていてもどかしいのですが、それではカラヤン盤は平凡かというと、決してそうではないのが悩ましいところで、前述のようにオーケストラの純粋な充実感が際立った水準にあるため、ここぞという時の聴き応えに並々ならないものがあります。
この「ドン・カルロ」というオペラは、ヴェルディの書いた一連のオペラの中では最もワーグナーに接近した作品だと評されることがあるのですが、このカラヤン盤を聴いていると、そのことを強力に実感させられます。とりわけ多用される金管強奏に聴かれる豪快で壮麗なフレージング展開は、ヴェルディ作品としても異色なくらいの趣きなのですが、少なくともそういうワーグナーのような趣きを、聴いていて鮮明に感得させられるという点では、ムーティ/スカラ盤よりもカラヤン/ベルリン・フィル盤の方が確実に優れていると思います。
もうひとつ、カラヤン盤の方がムーティ盤より確実に優れていると感じたのは、ロドリーゴ役ピエロ・カプッチッルリの迫真の歌い回しで、稀代のヴェルディ・バリトンの凄味が全編に充溢していて、聴いていて圧倒される思いでした。例えば第1幕ラストで、ロドリーゴがフィリッポ2世の異教徒弾圧を諌めるために、「la pace e del sepolcri!(墓場の平和)」と叫ぶ場面など、これ以上無いというくらいの迫力を披歴し、ここだけ比べてもムーティ盤のコーニとは圧倒的な差を示しています。それもオケに対して引っ込み気味の歌唱バランスで録られて、ここまで凄いのですから、やはりさすがだと感服させられました。
このカプッチッルリの名歌ぶりに対して、カレーラス、ギャウロフ、フレーニ、バルツァはいずれも、さすがに名歌手だなという印象はしますが、それでもかれらの本領からすると、もう少し感興が伸びる余地があるような気もします。もしカラヤンでなくムーティの指揮下で歌ったならば、全体にもう一歩良くなるのではないか、そんな気がしました。
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