若杉弘/都響によるマーラー交響曲第7番「夜の歌」
マーラー 交響曲第7番「夜の歌」
若杉弘/東京都交響楽団
フォンテック 1989年ライヴ FOCD9024/5

先日亡くなられた若杉さんの残したマーラーの録音のひとつ、交響曲第7番「夜の歌」のCDを今日、久しぶりに聴きました。1989年6月のサントリーホールでの、東京都交響楽団とのコンサートのライヴ収録です。
マーラー演奏においては日本のオーケストラ団体として随一の演奏技術を持つと言われる都響、その基礎を築くに多大な貢献を果たしたのが、若杉氏との一連のマーラー・チクルスであり、この機会に、きちんとその演奏に向き合ってみたいと思ったので、、、
まず第1楽章ですが、冒頭の導入部から弦の最弱音(pp)と管の強音(f)とを適切な強弱バランスに維持しつつ、かなり慎重に開始されるのですが、主部のアレグロ楽想に入った第1主題(3:32)など、アンサンブルの動きがやや堅いような感じで、オーケストラ全体にちょっと緊張過多のような雰囲気が漂っています。
しかし次第にアンサンブルの起伏に柔軟さが戻り、ホッとします。ことに(5:07)からの第2主題部あたりでは主旋律の伸縮がかなりナチュラルな形で描き出されていて、本来の都響のパフォーマンスに戻ったなという感じがします。
楽章を通して、おおむね速めの良いテンポを基調とする正攻法のアプローチで、音楽的にはかなり端正な構えとなっており、対位モチーフが複雑化する展開部中盤あたりでも構築的にはガッチリしており、そういう意味での完成度は高くて傾聴させられます。
もっとも、ところどころ主旋律を過分に重視したようなバランスが演奏の前面に立ち過ぎるあたり、聴いていて少し引っ掛かりました。ことに展開部中盤のモデラート楽想やその後半の第2主題展開楽想などがそうで、いずれも副旋律や内声のニュアンスがやや埋没しがちであるように思われ、ディテール面でいささか物足りなさを感じたのも事実です。
しかし、むしろここでの若杉/都響の演奏の素晴らしさは、およそ小細工を弄することなしに、この大曲に正面切って立ち向かっているという事実が、聴いていてひしひしと実感される点にあるような気がします。特に展開部後半の導入部再帰場面におけるテノール・ホルンやノーマルのホルン、トロンボーン、チューバといった各種金管独奏の響きには朴訥とした自然味が豊かで、味があり、この場面がこんなにケバケバしくない演奏というのも珍しいとさえ思うほどですが、ここなど外面的な音響効果よりも内省的なハーモニーを意識した若杉/都響の面目躍如という感があります。再現部からコーダにかけても、楽節ごとに緩やかな起伏を描きつつ、特に複数のクライマックスにおける強奏場面でさえ飽和しないハーモニーの感触が秀逸で、これなどもやはり指揮者の厳格な統制力の賜物なのでしょう。
中間の3つの楽章では、いずれも造型のラインを曲線的にならしたような快適な音楽の流れが、一体感のあるアンサンブルから湧出されていて、落ち着いて音楽に向える雰囲気は高いのですが、全体的にいまひとつの独自的な抑揚というか、意表を突くようなアクセント、ないし思い切ったメリハリのようなものが香辛料的に欲しいような思いも残りました。
終楽章も派手な音響的発散を防ぎつつ、まるで音楽的な支離滅裂さを極力表面化させないとでもいう風な、きっちりと統制されたアンサンブルの理性的な佇まいが印象的です。理性的といっても決してドライではなく、ハーモニーの感触はむしろ柔和にしてウエットであり、第5ロンド・リフレインの第361小節から入ってくるグロッケンシュピーゲルの局所的な最強打(11:12)だけはちょっとやり過ぎのような感があって、そこだけ全体から浮いてしまっている感じが否めませんでしたが、それ以外は安心して音楽に浸れる、ストイックなまでに正攻法の、誠実な語り口の演奏でした。
したがって、それだけ聴き手の想像力に下駄を預けた表現とも言えそうですが、いずれにしても本ライヴはこのマーラー作品の、日本での演奏史におけるひとつのマイルストーンとして貴重な記録というだけでなく、内容的にも指揮者とオーケストラの旺盛な演奏意欲に裏打ちされた、ストレートながらも求心的で引き締ったアンサンブル展開の充実感に聴いていて惹かれ、それを楽しめました。
この7番も含めて若杉/都響のマーラー・チクルスはいずれも現状廃盤のようですが、この機会に再発されるといいですね。
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