テンシュテット/ロンドン・フィルによるマーラー交響曲第6番「悲劇的」の83年ライヴ


マーラー 交響曲第6番「悲劇的」
 テンシュテット/ロンドン・フィル
 ロンドン・フィル自主制作 1983年ライヴ JLPO0038
JLPO0038

先月リリースされた、クラウス・テンシュテットがロンドン・フィルを指揮したマーラー6番のライヴ盤です。これは1983年8月、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのコンサートにおける演奏とされます。

テンシュテットのマーラーのライヴともなれば演奏が悪かろうはずもなく、かなり期待して購入しました。ところが、第1楽章の最初あたり耳にしてオヤッという感じがしました。演奏ではなく、音質についてです。

シャーというテープ録音特有のノイズ音がかなり高めで、それも不規則に大きくなったり小さくなったりと煩わしい感じです。こういうのはエア・チェック音源の海賊盤などではよく耳にしますが、正規盤としては珍しく、ことによると原テープの保管状態がさほど良好ではなかったのかも知れません。

この音質では、さしものテンシュテットのマーラーと言えども苦しいのではないかと危惧しましたが、結果的にそれは全くの杞憂で、聴き進むうち、そのあたりの音質的瑕疵に関してはほぼ気にならなくなっていました。演奏自体が破格にして、圧倒的であるがゆえに。

これはまさにテンシュテットならではの極限に張り付いたような音響的凄味が全編に充溢するマーラーであり、ここまで激烈な管弦楽的表出力を湛えた演奏というのも滅多にあるものではなく、これでもし音質が万全だったら、と思うと空恐ろしいくらいです。

とても書き切れるものではないですが、第1楽章でとりわけ印象的なシーンをざっと概観すると、、、展開部に入って間もなく(9:56)あたりの急迫的なテンポに漲る殺気立った気配、(15:49)あたりのヴァイオリンの恐ろしい叫び、その痛ましさ、(16:59)近辺の金管楽器の奏でる血なまぐさいまでの咆哮、そして357小節(18:33)のヴァイオリンの、果てしなく伸ばされる死力のソステヌート、、、

第2楽章も第1楽章の苛烈をそのまま継承し、その凄まじさに圧倒され、ただただ時間を忘れて聴き入ってしまうほどでしたし、第3楽章の真に迫ったカンタービレの美しさなども、感動的というのも生ぬるいくらいのものですし、必ずしも万全でない音質でここまでの感銘を与えられるということは、実演だと一体どうなってしまうのか、ちょっと想像がつかない、そんな演奏です。

終楽章も圧巻で、強奏時のオーケストラの鳴動には第1楽章に輪をかけた恐るべき表出力が付帯し、弱奏場面との音響的なコントラストには聴いていて気が遠くなるくらいですし、その強奏時の迫力たるや、ことに(14:44)あたりなど、この世のすべてを薙ぎ払うとでもいうかような死ぬ気の裂帛が聴かれ、ここなどはもう聴いていて鳥肌どころか総毛立つほどでした。

以上、このテンシュテットのマーラー6番は、音質が万全でないのが悔やまれるとしても、おそらくテンシュテットの残したマーラーの中でも最上位に位置づけられる凄演と確信させられるものでした。

これほどの深い感銘を覚えたマーラー6番のCDとしては、私が最近聴いたものではベルティーニ/ベルリン・ドイツ響の73年ライヴ、あるいはラトル/ベルリン・フィルの87年ライヴが思い起こされます。

今回聴いたテンシュテット/ロンドン・フィルの83年ライヴもこれらと同格だと思うのですが、しかし音質のハンデを考えると、、、、その実演は、おそらく私などの想像を超えたものだったのでしょうね。

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