ケーゲル/ライプツィヒ放送響によるベートーヴェンのミサ・ソレムニス


ベートーヴェン ミサ・ソレムニス
 ケーゲル/ライプツィヒ放送交響楽団
 ヴァイトブリック 1987年ライヴ SSS0067
SSS0067

ヘルベルト・ケーゲルがライプツィヒ放送交響楽団及びその合唱団を指揮して、1987年12月30日と31日にベルリン・コンツェルトハウスにて演奏されたベートーヴェンのミサ・ソレムニスのライヴが収録されています。

このCDは今年5月下旬にリリースされたものなのですが、実はHMVのオンライン・サイトでは早くも「廃盤」とされていて購入不能となっています

リリースから一か月余りで廃盤というのは普通は有り得ず、何らかの事情によりリリース中断を余儀なくされたと考えるべきですが、この件に関して、くだんのHMVサイトのディスク・レビュー欄には録音が「逆位相になっている」ので廃盤になったのではないか、と書かれています。

いずれにしても気になったので、購入して確かめてみました。ちなみに、今のところ廃盤扱いされているのはHMVのみのようで、タワーレコードなどではまだ普通に売られています。

聴いてみると、、、確かに逆位相のようですね。例えば3曲目「クレド」のアレグロ・モルト(10:00)あたりのキリスト讃歌のくだりでは高弦の強奏の音像が明らかに右側ですし、4曲目「サンクトゥス」でベネディクトゥスの開始をしめやかに告げる(6:28)からのヴァイオリン・ソロもやはり右側から聴こえてくるようです。

ただ、音響全体としては残響感に富み、ハーモニーの溶け合いも良好で、いわゆる分離型のソノリティではないため、逆位相とはいえ聴いていてそれほど違和感は強くなくて、言われなければ気付かない可能性さえありそうです。

というわけで、おそらく逆位相に気付いたHMV、あるいはヴァイトブリックが自発的にリリースを打ち切った、というあたりが真相かと思われますが、これは甚だ残念な気がします。このケーゲルのミサ・ソレムニス、聴いてみると予想をずっと上回る名演だったからです。

ケーゲルとライプツィヒ放送響による声楽系の宗教曲というと、1985年にスタジオ録音したブラームスのドイツ・レクイエムが有るのですが、この演奏は私にはそれほど深みのある表情とは思えなかったため、このミサ・ソレムニスの方も過度な期待を抱かずに聴いたのですが、これが非常な名演で、正直びっくりしました。

このミサ・ソレムニスにおいても、先のドイツ・レクイエム同様、アンサンブル展開としては全体に厚みのある響きとは言えないのですが、ここではアンサンブルの鳴り切ったような燃焼力が豊かで、少なくともドイツ・レクイエムでの表面的な感じの鳴り具合とは一線を画した充実感が伺われますし、それ以上に、アンサンブルが鳴り切った場面においてさえ決して飽和せず、不思議なほどの透明感を満たしたハーモニー展開が描き出されていて、これには聴いてきて思わずグッとさせられました。

例えば2曲目「グロリア」の(12:46)からのグロリア・フーガなどがそうで、この場面でこれほど音響的に深みのあるアンサンブル展開というのも滅多に耳にし得ないと思われますし、最後の(17:44)からのプレスト部の追い込みに至っては、そのプレスト進行のアンサンブルの織り成す天上的なハーモニーの雰囲気に、聴いていてぞくぞくするようなカタルシスを覚えずにはいられないほどでした。このプレストのテンポから、これほど天上的な雰囲気を満たした演奏というのも珍しいのではないかと思います。

全体の演奏時間は83分と、この曲にしては標準よりやや遅めという風で、際立ったものではありませんが、聴いているとテンポの緩急にかかわらず、個々のフレージングには隅々まで血の通ったような確たる訴求力が感じられますし、それらのフレージングが総体的に形成するところの、俗離れしたような響きのめくるめく音響美にも強く心を動かされるものでした。

このケーゲルのミサ・ソレムニスは、事によるとこのまま「お蔵入り」になる危険もあるかと思われますが、もしそうなった場合、演奏内容が素晴らしいだけに残念な気がします。

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