ライアン/フランス国立ボルドー・アキテーヌ管によるシューベルト交響曲第9番「グレイト」


シューベルト 交響曲第9番「グレイト」
 ライアン/フランス国立ボルドー・アキテーヌ管
 MIRARE 2007年 MIR045

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」特設会場のCD販売エリアにて購入したディスク。

この音楽祭は2005年から毎年GW期間中に行われていたのに、会場が東京国際フォーラムというので敬遠してきたのだが、今年初めて足を運んでみたところ、その魅力にすっかりハマってしまった。ホールの音響に関しては、確かにNHKホールに輪をかけてデッドだが、思ったほどに酷いものではなかった。それより何より魅力的なのは、海外のアーティストによる公演を低料金で次々にハシゴできるという、信じがたいまでの贅沢が味わえる点! 結局、3日間で10公演ほど聴いてしまったのだが、その中でのベスト・コンサートとして、クワメ・ライアン指揮によるフランス国立ボルドー・アキテーヌ管のシューベルト交響曲第9番「グレイト」を挙げたいと思う。

指揮者もオーケストラも初めて聞く名前で、ライアンはステージに出てきた時に黒人だと分かって少し驚かされた。カナダ生まれの若手指揮者で、07年よりボルドー・アキテーヌ管の音楽監督を務めているとのこと。その指揮の内容は極めてオーソドックスなもので、ハーモニー・バランス、フレージング構成、テンポ取り等、いずれもピリオド・スタイルからの影響と思われる節は端的には伺われない。さりとて伝統的なドイツ風重厚スタイルというのでもなく、そのあたりが聴いていて新鮮だった。言うなればフランス風の音響的な特性をポジティブに活かしたシューベルト演奏で、全編にとにかく明るく美しく、生命感に溢れた色彩の妙感と、細やかにして明晰なアンサンブル展開の創出するニュアンスの豊かに、聴いていて新鮮な喜びを喚起させられた演奏だった。

終演後にCD売り場に直行し、同じ顔合わせで、実演と同じシューベルトの「グレイト」のディスクが販売されていたので飛び付いて購入。さっそく聞いてみると、第1楽章冒頭のホルンの飾らない音色の魅力からして、実演での感触がまざまざと蘇るようだ。全楽章を通して、こうしてディスクで客観的に聴いてみると、総じて弦パートの力感や強度感に弱みがあるのに対し、相対的に管パートの音色のうるおいや表情の強さに強みがあるというフランスのオーケストラらしい特性があらためて実感される。そのあたりの特性を作品に対して絶妙にフィッティングせしめているライアンの指揮手腕にはやはり非凡なものがあり、その独特の味わいの響きが穏やかな感動をもたらしてくれる名演だ。

コルボ/ローザンヌ声楽アンサンブルによるロッシーニの小荘厳ミサ曲


ロッシーニ 小荘厳ミサ曲
 コルボ/ローザンヌ声楽アンサンブル
 エラート 1987年 WPCS-11496

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」特設会場のCD販売エリアにて購入したディスク。

このロッシーニ最晩年の大作を実演で聴くのはこの音楽祭が初めてで、演奏はこのCDと同じ、コルボ指揮ローザンヌ声楽アンサンブル。しかしその演奏は、いまひとつピンと来なかった。名匠コルボの指揮による宗教曲の演奏で、内容が良くない道理はないのだが、、。

実際、コルボの指揮は完璧であり、ローザンヌ声楽アンサンブルも、その持ち前のミサ祈祷文に対する抜群の歌唱力を披歴し、演奏自体は確かに名演だったと思う。が、いかんせん作品自体の表出力に限界があるような気がする。70分を要する大曲としてみると個々の構成曲が形成する起伏的なインパクトが弱く、作品の雰囲気としても、確かに完全なミサ形式に則しているとはいえ、本格的な宗教曲の荘厳な趣きはそれほど強度でない。それゆえ、聴いていて音楽に対する集中力を維持するのがいささかキツいというのが率直なところだ。やはりこの作品は、ロッシーニの本領とはちょっと外れた地点での音楽という感じがする。

以上の感想はこのディスクを聴いた後でもやはり同じだったが、こちらの方が実演で聴いた時よりも印象的に上だった。その理由は声楽ソリストにあり、ガスディアやラ・スコラといったスカラ座の名歌手たちの歌唱が演奏に対して表情の強さを付与していたためだ。それはもちろん宗教曲的な表情とは違うと思うが、少なくともロッシーニの音楽として考えた場合、このくらいの表情の強さは好ましいと思う。

ブリジット・エンゲラーによるベートーヴェンのピアノ作品集


ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番、アンダンテ・ファヴォリほか
 エンゲラー(pf)
 ハルモニア・ムンディ・フランス 1990年 HMA1951346

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」特設会場のCD販売エリアにて購入したディスク。ベートーヴェンのピアノ小品を中心に編まれたアルバムで、収録曲は作品51の2つのロンド、作品76の変奏曲、エリーゼのために、アンダンテ・ファヴォリ、ピアノ・ソナタ第31番の計6曲。

同音楽祭でブリジット・エンゲラーがソロを受け持ったベートーヴェンのトリプル・コンチェルトの演奏を聴いた(チェロはクニャーゼフ、ヴァイオリンはマフチン、オケはシンフォニア・ヴァルソヴィアで指揮はカスプシク)。この演奏は素晴らしく、クニャーゼフ、マフチン、エンゲラーの息の合った掛け合いの妙味に、聴いていてワクワクさせられることしきりで、それをシンフォニア・ヴァルソヴィアのアンサンブルの凝縮力が絶妙にひきたて、まさに同曲のベスト・パフォーマンスという感じがした。その演奏直後にエンゲラーのサイン会がCD販売エリアにて予定されているというので、このディスクを購入して裏面にサインを頂いた。

エンゲラーのディスクはその売り場に数点並んでいたが、とりあえず同じベートーヴェンのアルバムということでこれを選んだ。ひととおり聴いてみたが、一貫的に明朗な色感のタッチから鮮やかに浮かび上がるメロディ・ラインの情感が好感的な演奏で、とくにロンドやアンダンテ・ファヴォリに聴かれる艶やかな音色の基調や伸びやかなフレージングは、音楽に落ち着きのある優雅な趣きを付与していて魅了させられる。反面、緊張感という点に物足りなさを感じるのも事実で、それは小品作品においては性格上止むを得ないものであるとしても、31番ソナタなどでは、聴いていてもう少し不意打ちのような刺激を望みたくなるような印象があり、このあたりはやはり小品作品でのそれと同一線上のコンセプトゆえの限界ではないかと思う。

ダニエル・ロイス/RIAS室内合唱団によるストラヴィンスキーの声楽作品集


ストラヴィンスキー バレエ・カンタータ「結婚」、ミサ 、
   古いイギリスのテクストによるカンタータ
 ロイス/RIAS室内合唱団、ミュジーク・ファブリク
 ハルモニア・ムンディ・フランス 録音年不祥 HMC-801913

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」特設会場のCD販売エリアにて購入したディスク。

同音楽祭でダニエル・ロイス指揮によるシューベルトのミサ曲第5番を聴いた(演奏はカペラ・アムステルダム&ヴュルテンベルク室内管)が、これが思いのほか素晴らしい内容だった。とくにグロリアとクレドにおける強奏部での荘厳な音楽の佇まいが抜群に良く、その管弦楽と声楽の織り成す絶妙なハーモニー・バランスに魅了させられた演奏だった。オケと合唱陣それぞれの力量もさりながら、双方を強力に統制しつつ有機的な音楽の流れを現出せしめた指揮者ロイスの力量によるところも大きかったように思われた。それで同指揮者のCDを会場で探してみたところ、このストラヴィンスキーの声楽アルバムが販売されていたので購入して聴いてみた。

ストラヴィンスキーの原始主義・新古典主義・セリー主義の作品からそれぞれひとつずつ抽出するというコンセプトがまず面白いと思うし、内容的にも名演だ。RIAS室内合唱団は2003年からロイスが音楽監督を務める手兵の合唱団で、アルバムの3曲をそれぞれロシア語、ラテン語、英語と歌いわけているが、いずれも緻密で精妙なハーモニー展開であり、ストラヴィンスキーのマニアックなまでに入り組んだテクスチャが聴いていて手に取るように明瞭。これにはSACDハイブリッドによる音質の良さの助力もあるようだが、いずれにしても声楽曲を聴く醍醐味を満喫させてくれる点がいいし、さらにバレエ・カンタータ「結婚」は打楽器のヴァイタリティに充実感が伴い、「春の祭典」をも彷彿とさせる狂騒的高揚感を伴う音響的インパクトが素晴らしい。

ネマーニャ・ラドゥロヴィチによる無伴奏ヴァイオリン作品のライブ・アルバム


ネマーニャ・ラドゥロヴィチによる無伴奏ヴァイオリン作品のライブ・アルバム
 ラドゥロヴィチ(vn)
 トランスアート 2005年ライブ TRM136

「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2008」特設会場のCD販売エリアにて購入したディスク。

収録曲は①ミレティチ 無伴奏ヴァイオリンのための舞曲②イザイ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番③パガニーニ 24の奇想曲第1番・第13番④J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番⑤イザイ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番。

ネマーニャ・ラドゥロヴィチはセルビア生まれの若手ヴァイオリニストとのことで、その演奏を同音楽祭で聴いたのだが(曲目はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で、指揮はクワメ・ライアン、オケはフランス国立ボルドー・アキテーヌ管)、その実演での印象の限りにおいては、確かにテクニックにはもの凄いものがあり、音楽性も抜群ではあるものの、いまひとつ深みというか凄味が付随しないもどかしさがあり、芸術家としてはいまだ発展途上段階、というのが率直な感想だった。

ラドゥロヴィチのディスクは特設会場に2種類ほど売られていたが、デビュー盤ということでこの無伴奏ヴァイオリン作品のライブ・アルバムを購入して聴いてみた。ひととおり聴いての印象の強さは、こちらの方が実演の時より数段上回っていた。まず技巧の冴えという点において尋常じゃないものがある。すべて超難技巧の曲ばかりだが、いずれにおいてもボウイングの抜群の切れと運動感に、聴いていて唖然とさせられる。しかもライブ録音ときている。単に技巧が立つばかりでなく、例えば①の冒頭や②の終楽章など、まるで弦を掻き切らんというような切迫感を表出し、その訴えかけの力が並々ならない。

対して④のバッハにおいては、とりわけシャコンヌにおいて、実演時の印象にも似た、ややショー的な表面性が少し散見される感じがするのも事実。とはいえ、将来性豊かなアーティストであることは間違いないと思う。

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