ワルター/ウィーン・フィルによるマーラー交響曲第9番


マーラー 交響曲第9番
 ワルター/ウィーン・フィル
 オーパス蔵 1938年ライブ OPK2060
OPK2060

先週サントリーホールでウィーン・フィルの来日公演を2日続けて聴き、感想をブログに書きましたが、その最終日の方の公演は本来エサ=ペッカ・サロネンを指揮者に迎えてのマーラー交響曲第9番が予定されていたところ、そのサロネンが公演一ヵ月前に急遽キャンセルを発表、その代役としてプレートルが登板の運びとなり、演目も大きく変更となりました。

そのプレートルは超弩級の演奏を披露し、先週ブログにも書きました通り大感銘を受け、最終的には聴きに行って本当に良かったと思いましたが、ただ、もともと私はマーラーの9番をウィーン・フィルで聴ける貴重な機会と捉えてチケットを購入していたため、それが聴けなかったことが敢えて言うなら残念なところでした。

しかし、そもそも私は何故そんなにもマーラーの9番をウィーン・フィルで聴きたいと思っていたのだろうということを、突き詰めて考えると最終的に行き着くのが、どうやら、このブルーノ・ワルター指揮ウィーン・フィルの演奏によるマーラー9番の世界初録音ライヴということになりそうです。

あまりにも有名で、もはや語り尽くされた感すらある録音ですが、この演奏に聴かれる、例えば第1楽章の身を切るような悲しみの訴求力なり、終楽章の死滅的な音彩なりというのが、ほとんど常軌を逸しているほどに鮮烈かつ痛切に表現されているため、むろんマーラーに対する余人の追随を許さないまでに共感に溢れたワルターの指揮に拠るところ大としても、ウィーン・フィルだからこそ出せる響きの表現力というのも少なからず貢献しているのではないかという風にも思えなくもなく、いずれにしても、これだけの歴史的録音を為し得たオーケストラの実演で、一度この曲を聴いてみたいという欲求が私の中に依然くすぶっているような感じがします。

ところで今年のウィーン・フィル来日公演は、最初の段階では小澤征爾が全公演を振るという予定が立てられており、演目がマーラー9番にブルックナー9番、それにドヴォルザーク「新世界」という、要するに3種類の交響曲第9番を並べるという形だったところ、その小澤氏が春先に病気療養のため降板を発表、それを受けてサロネンとネルソンスが演目を分担する形で登板という発表でしたが、その際にサロネンの要請でブルックナーの9番が6番に変更、これで行くかと思いきや公演まで一ヵ月を切った時点でサロネンがキャンセル、それを受けて今度はウェルザー=メストとプレートルとネルソンスが演目を分担する形になりましたが、その際にウェルザー=メストがブルックナーの6番を再度9番に変更するとともにプレートルもマーラー9番をシューベルトの2番とベートーヴェンのエロイカに変更し、これで最終的に落ちつく形となりました。

つまり最初の段階での構想から最終的に漏れた演目は結局マーラー9番だけということになりますが、このような状況に鑑みると、来年のウィーン・フィル来日公演で再度マーラー9番が演目に登る可能性もあるのではないかという気がしますが、どうでしょうか。もし演目に登るのなら万難を排しても聴きに行くつもりですが、、

以下、本CDについてですが、これはオーパス蔵による板おこし復刻ディスクで、2006年にリリースされたものです。それまで私はカナダEMI盤(CDH7630292)で聴いていましたが、音質比較してみたところが、オーパス蔵の方の音質が圧倒的に良く、カナダEMI盤でのぼんやりしたソノリティが、すごい実在感で響いてくるのに度肝を抜かされました(したがってカナダEMI盤は売却しました)。聴いているうちにステレオ録音かとさえ思えてくるほどの音響的な拡がりの豊かさも素晴らしく、この曲を最近ウィーン・フィルは全く録音していないこともあり、このオーパス蔵復刻盤の価値には絶大なものがあると思います。

サバイーノ/ミラノ・スカラ座管によるヴェルディの歌劇「オテロ」全曲


ヴェルディ 歌劇「オテロ」全曲
 サバイーノ/ミラノ・スカラ座管弦楽団
 プライザー 1931・32年 PR20012
PR20012

ヴェルディの歌劇「オテロ」ですが、先週カラヤン/ウィーン・フィルの全曲盤と、ミュンフン/パリ・バスティーユ・オペラの全曲盤を聴いたのに続いて、今日はカルロ・サバイーノ指揮ミラノ・スカラ座の全曲盤を聴いてみました。

このサバイーノ盤は、「オテロ」全曲の世界初録音として知られるものです。

そのあたりの記念碑的な意味合いもあるとしても、この録音の真価はむしろその音質でしょう。とにかく驚異的な音質で、30年代初頭の録音とは俄かに信じがたい気さえします。

例えば、現状このサバイーノ盤以外で、「オテロ」全曲のミラノ・スカラ座による唯一の正規録音である、1985年に録音されたマゼール盤(EMI)とひき比べてみても、信じがたいことに、オーケストラの響きの豊かな肉厚感といい、ハーモニーの鮮明感といい、ソノリティ全体の実在感の強さといい、いずれもこちらのサバイーノ盤の方に軍配が上がると思います。デジタル録音がSP初期の録音に音質で負けるなど、常識では考えられない話ですが、、、

この高音質を背景に、当時のスカラ座の歌手たちの爽快な歌いっぷりを時代を超えて堪能できるというのも、ちょっと堪えられない喜びで、色々な意味でこの録音は貴重だと思います。

外題役ニコロ・フサティの歌唱は、さすがにデル・モナコやドミンゴなどと比べるとやや小粒という感もありますが、要所要所で聴かせる、抑えがたい衝動を赤裸々に叩きつけるというような迫真の歌いぶりが見事です。デズデモナ役はマリア・カルボーネ、イアーゴ役はアポロ・グランフォルテ。

それにしても、スタジオ録音であるにもかかわらず、聴いていると何となくオペラ劇場でのライヴみたいな雰囲気を感じるのですが、この年代のオペラ録音には、こういう雰囲気のものが少なからずあるようですね。

カザルスによるバッハ・無伴奏チェロのオーパス蔵復刻盤


J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲
 カザルス(vc)
 オーパス蔵 1936~39年 OPK2041
OPK2041

もはや名盤中の名盤ともいうべきパブロ・カザルスのバッハ・無伴奏チェロSP録音のオーパス蔵による復刻盤です。

このオーパス盤は、2003年にリリースされていたもので、新譜ではないですが、今月都内のCDショップをのぞいた際に1000円という低価格で販売されていたのをみかけて、遅まきながら購入した次第です。

この低価格は、てっきりその店舗のバーゲンセールかと思ったんですが、後でネットで調べてみると、どうも今年の2月あたりからオーパス蔵リリースのディスク自体が値下げされて販売されているようです。もともとオープン価格なので厳密には値下げではないですが、このカザルスのバッハ・無伴奏チェロ全曲は値下げ前は4000円もしたCDで、それが一気に4分の1ですから、またずいぶん思い切った価格ですね。

音質ですが、以下の本家EMI盤と聴き比べてみました。

5662152
J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲
 カザルス(vc)
 EMIクラシックス 1936~39年 5662152

これは1997年再発のartリマスタリング盤で、EMIの誇るアビロード・スタジオのデジタル・テクノロジーを駆使したリマスタリング技術が用いられています。

このEMIのart盤を本ディスクのオーパス盤と比べてみましたが、率直に言いますと、あまりの違いに、ちょっと慄然とさせられたほどでした。

オーパス蔵の復刻自体に関しては、私もこれまでの経験から重々承知していたつもりでしたが、この音質の良さは、およそ私の想定の範囲外で、まさかこれほどとは、というのが率直な感想です。

このオーパス盤を聴いた後では、同じ演奏でもEMIのart盤はいかにも貧弱な音という印象が否めず、まず音勢が同じボリュームでもオーパス盤より全然弱いですし、眼前で弓が軋むかのようなリアルなボウイングの感触のオーパス盤と比べて、EMIのart盤は臨場感において著しく聴き劣ります。

ノイズレベルはオーパス蔵の方がart盤より高めですが、レベル自体は安定していて耳障り感が少なく、例えば無伴奏組曲第1番の第1曲冒頭部など、art盤の方はグシャグシャとした耳障りなノイズ感なのに対し、オーパス蔵はシャーという単純なアナログノイズだけで、art盤よりずっと聴き易い感じです。

以上、このオーパス蔵のカザルス盤は、少なくともEMIのart盤とは別次元の音質と言わざるを得ず、聴いていて、これが本当に1930年代のSPの音かと疑ってしまうほどです。これが千円というのはなんだか気がひけるくらいで、仮にこれほどの音質だと分かっていれば、たとえ値下げ前の4000円の値段でもあるいは買っていたかも、、と思ったくらいです。

もちろんオーパス蔵のリマスタリングといえども多少の当たり外れはあるもので、実際このカザルス盤と一緒に購入したリパッティのグリーグとシューマンのコンチェルト集のディスク(OPK2072)の方は、本家EMI盤に対してさほどアドヴァンテージのある音質とは思えなかったんですが、このカザルスのバッハに関しては、まさにオーパス蔵会心のリマスタリングと言い切れるほどの素晴らしさだと思います。

メンゲルベルク/コンセルトヘボウ管によるブラームスの交響曲全集


ブラームス 交響曲全集
 メンゲルベルク/コンセルトヘボウ管弦楽団
 メモリーズ 1932年~40年 MR2049/50

3ヶ月くらい前にリリースされた、メンゲルベルクとコンセルトヘボウのブラームス交響曲全集です。録音年は1番と2番が40年、3番が32年(CD上の表記には31年とありますが、たぶん誤記です)、4番が38年。形態は1番のみライブ録りで、他はスタジオ録音です。

全4曲ともこれまでにも複数のレーベルから復刻が行われているお馴染みの演奏ですが、今回のこのメモリーズの復刻盤は、全4曲がCD2枚に組み込まれていて、かつ音質改善がうたわれています。値段も安かったこともあり購入して聴いてみたんですが、音質は確かにかなりいいと感じました。

例えば最初に収録されている第3シンフォニーの録音を、同一音源のアンダンテ盤(AN-1030)と比べてみると、明らかにこちらのメモリーズ盤の方が音が鮮明で、響きが実在感に富んでます。ノイズはやや多めですが、ノイズを下手に除かずに原盤のダイナミクスをそのまま活かしたようなトーン・ポリシーのようで、特にフォルテの鮮烈感が素晴らしい。他の3曲の演奏も同傾向で、既出盤中最高かどうかは分かりませんが、少なくとも最高水準の音質という感じはします。

演奏としても概ね名演で、音質の良さもありそれぞれの演奏の個性をあらためて認識させられます。4曲の中でのベストは第1シンフォニーの演奏でしょう。とにかくメンゲルベルクの個性全開。第1楽章冒頭から弦の強烈な鳴りっぷりが爽快を極め、主部以降では何かに憑かれたような高速テンポを主体に部分的にテンポを大きくうねらせ、その造形の振幅が凄まじい。ティンパニの鳴りも、例えば32年録音の第3シンフォニーの時よりはるかによく、アンサンブルのド迫力に拍車をかけています。ことに、コーダの(12:19)での激打! 

第2楽章はメンゲルベルクのお家芸ともいうべきポルタメントを全編に押し出しての濃厚を極めたフレージングで、まさに情感ここに極まれり、というような。第3楽章もケレン味たっぷり。終楽章は第1楽章に輪をかけて強烈に造形を揺さぶったロマンティック・スタイルの極地ですが、その造形ほどには音楽の表情自体は甘くないですね。アンサンブルの充実感が際立っているからで、例えば(12:36)あたりの最強奏に聴かれるアンサンブルの凝縮感など、凄味に満ちてますし、コーダの高潮感も抜群です。

他の2~4番の演奏もだいたい同様の流儀による名演ですが、ライヴの1番と比べてしまうと、表出力の度合いでやや引けを取るような感じはします。

明日はベーム/ウィーン国立歌劇場によるベルクの歌劇「ヴォツェック」全曲ライブについて書きます。

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